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 病室へと近付けば、扉の前で立つつくす2人がまず、目に入った。戸惑いや怒りを滲ませてるのは、少し近付くだけでもよく分かる。  柚陽(ゆずひ)の言葉を信じるなら、オレなんてなおさら、海里(かいり)の前に現れるべきじゃない。だから陸斗(りくと)は気配を潜ませて慎重に病室に近付く。  それでも海里の様子は気になってしまって、死角からそっと覗いて、 「っ……!!!」  あがりそうになった絶叫を堪えきったのは、海里を怯えさせないために、少しでも役立てたと思いたい。  柚陽が証拠だと言って見せた動画から、惨状は覚悟していた。……でも、覚悟した「つもり」止まりだったすわ。柚陽はいつだって、考えられる限りの「最悪」の下を、ある意味では上を行くのだ。  ベッドは乱されて、点滴は倒れている。無理やり引き抜かれた針の部分から薬はチョロチョロと床に流れて。  他にも誰のものかも分からない血液だの、……白い液体などで、床はよごれていた。それだけじゃない。リモコンや、カップ、なんかも落ちている。  ベッドの上もシーツや枕がぐちゃぐちゃに散らばり、本来近くに置かれているはずのナースコールも見当たらない。  そんな部屋、そんなベッドの上に、海里はへたり込むように座っていた。  怯えきった目が見つめる先には、立ち尽くす波流希(はるき)(みなと)。  まるでネジが切れたカラクリのように止まってしまった2人に、海里はますます細くなった腕を振りあげると、 「やだやだぁ……痛いのも、こわいのも、やなのぉ……っ。はやく、はやく、どっか行ってよぉ……」  感情的に弱々しく叫びながら、2人に向けて、なのだろう、枕を放り投げた。……床にリモコンとかが散らばってるのは、そのせいっすか。  投げ捨てられた枕は、けれど2人のところに届くこともなく、ぼふっ、間抜けな音を立てて床へ落ちた。

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