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抱いたままの、願いが1つ。

 海里(かいり)は弱々しく陸斗(りくと)の腕に触れたまま、じっと陸斗を見つめる。  海里の目に自分が映ってるっていうのは、落ち着かないっすね。もう2度とこんな事ないと思っていたし、望んでもいなかったのに。まさかまた、海里の目に自分を見る日が来るなんて、ほんと思わなかったっすわ。  戸惑いと、ずきずきと痛む心。押し潰そうとする罪悪感。  それでも何故か、陸斗に対して怯える様子を見せずに、じっと陸斗を見つめている海里の手を振り払うなんて出来ない。  今の海里が全て忘れていて。壊れてしまっていて。ある意味では「だからこそ」陸斗を信じて縋れると思ったなら、身勝手に振り払ったりはできない。痛みは、苦しさは己への罰なのだろう。  でも、なんでよりによってオレなんすかね。オレは本来、怯えられる側で、ここに立っているべきは「はるにい」である波流希(はるき)か、せめて「親友」と呼べるだろう(みなと)なのに。  ちょっとだけ柚陽(ゆずひ)に似てるからっすかね? 少なくともやった事は、そう大差ない。ちらっとだけ海里の足を見つめる。相変わらず包帯が巻かれていた。  この状況を理解するように。もしかしたら、理解を拒むように。  ぼんやりと、そう考えていた陸斗の方に、海里の反対側の手が伸ばされた。  陸斗の頬を、そっと、それでいて、しっかりと撫でる。ここにこの形があるんだ、そう認識するように。  それから海里は陸斗の頬に触れたまま、小さく、首を傾げた。 「……今、ちゃんと幸せ?」

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