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その言葉を聞いた瞬間、思わず陸斗 は息を呑んだ。ちょうど波流希 たちには背中を向けているけれど、驚いているだろう様子は、伝わってくる。多分海里 を驚かせたくないっていう気持ちがなかったら、驚きに声さえあげていたかもしれない。
海里本人は、おかしなことを言ったつもりはないらしく、陸斗の頬に触れて首を傾げたまま。
海里はなにもかも忘れてしまったって、壊れてしまったって。だから波流希たちにも海里は怯えていたっていうのに。
なんで海里は、今まで口にしていたのと同じ言葉を、オレに言うんすか……。
驚きに声をあげる事こそ抑えられたけど、「幸せっすよ」なんて微笑むこともできなくて。
陸斗は海里をぼうぜんと見つめるくらいしか、出来なかった。
「オレ、変なこと聞いちゃった……?」
陸斗がなかなか答えない事が不安になったのだろうか、心配そうに陸斗を見つめて海里が問い掛ける。不安そうな顔のまま、引っ込めてしまいそうになった海里の手を、陸斗はそっと包んで止めた。
記憶の通り冷たい肌。まさかまた触れることがあるなんて。自分から触れてしまった事への後悔と罪悪感を抱きつつ、それでも海里の顔から不安が消えたことに安心してしまう。ごめんね、海里。もうアンタには触れないって、その資格はねぇって思ったのに。行き先のない謝罪を内心でだけ呟いた。
「ほんとだよー」
「そんなこと、ないっすよ」
柚陽 がなにか海里に言おうとするのを遮って、陸斗はやさしく、それでもはっきりと、そう口にした。
本当は微笑めるような余裕なんて、陸斗にもない。けれど、もしオレが笑うことで海里が安心してくれるって言うなら、オレは。
陸斗はどうにか微笑んで、
「アンタは、変なことなんて聞いてないよ。ただ、どうしてそう聞いたのかな、ってびっくりしちゃったっすけど」
そう返した。
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