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「幸せだったら嬉しいな、って思ったの」
柚陽 が海里 に何をしたかは分からない。ただ、波流希 や港 にも怯えていた以上、同じ言葉でも意味合いは違ってるかもしれない。それこそ、「ゆずひ以外は、不幸になって良いと思って」なんてセリフを、刷り込まれている可能性だってあるんだから。
陸斗 は別に、答えを求めて聞いたワケではなかった。ただ、柚陽が言葉を続けるのを避けたくて。海里をもう、これ以上不安にさせたくなくて。だから口にしたっていうのは、ある。びっくりしたのも、本音っすけど。
でも答えは期待してなかった。
だけど、海里は少し考えてから、小さく、本当に小さく微笑んで、そう言った。幸せだったら嬉しい、って。あれだけのことをしたのにも関わらず、「陸斗は今幸せか?」そう聞いたのと、まったく同じ声音で。
ああ、これで「ゆずひ以外は、幸せになっちゃダメだよ?」なんて言ってくれれば、まだ救われたんすかね。そんな逃げ道を一瞬考えて、振り払おうと首を振る。ダメっすよ。海里がオレを責めないなら、憎まないなら。この微笑みを受ける事が罰なんすから。
でも、でもね、海里。
本人に言えるはずがない思いを抱えながら、陸斗は本当にそっと、壊れ物を扱うように、おそるおそる、海里の手を撫でた。嫌がることも怯えることもなく受け入れいている海里は、けれど照れる事もしない。本当に壊れてしまったのかもしれないと、嫌でも陸斗に現実を突きつけた。
そんな中で「陸斗に幸せでいてほしい」なんて思いだけを、持ってなくて良かったんすよ。オレはアンタにそこまで想ってもらう資格なんて、ないのに。
幸せじゃないなんて、言えるはずがない。でも、幸せだなんて言いたくない。ああ、またオレにこの葛藤をさせるんすね。
当然の報いなのかもしれないと、陸斗は思う。むしろ、罰としては足りないくらいだ。自分の手で幸せを壊した。壊して「破滅」を幸せだと思い込んで、手を伸ばした。本来ならこの手はもう、「本当の幸せ」に触れる権利なんて持っていないのに。
「オレはね、……アンタが笑ってくれていれば、アンタがちゃんと元気で笑ってくれていれば、幸せっすわ」
ようやく口から出てきたのは、あの日、マンションで返したような言葉だった。
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