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今のままじゃ立てないと理解したのだろう、柚陽 の方をじっと見上げて、
「ゆずひ。立ちたいの、手伝って……?」
不安そうに訴えた。
海里 の言葉に柚陽が怒る可能性も考えて、陸斗 は自然海里を庇おうとするものの、柚陽の反応は意外な事に「しょうがないなぁ」という肯定寄りのもの。声にも怒りは滲んでいなくて、「ご機嫌!」とでも言うように弾んでいる。
手を貸すんだろうか。だったらここは邪魔かもしれない。本当はどきたくないけれど、怒った柚陽が何をするか分からない以上、どいた方が良いかもしれない。咄嗟に掴んでしまってそれきりだった海里の手から、自分の手を放そうとして。
「なに、やってるんすか……」
咄嗟にそれを止めると、柚陽の肩を、ぐい、押して海里のベッドから遠ざけた。遠ざけたといっても劇的に遠ざけられたワケではないけれど。それでも手を伸ばして届く距離からは外れただろう。
急に陸斗が邪魔に入った事で柚陽の頬は、ぷくっと膨らんだ。腕を組んで、指先でとんとん、なんてリズムを刻んで。全身で表現する苛立ちは、大げさな動作を好んで選んでいることで、コミカルにも見えてしまうけど、柚陽はマジで怒ってそうっすねぇ。
だけど、ここで退くワケにはいかない。怒ってるのは、陸斗とて同じだ。
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