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「それはこっちのセリフだよぉ。なにしてるの、りっくん。オレ、海里 が立つ手伝いをしてたんだけど?」
「髪か首、鷲掴みにして投げ飛ばそうとする、このドコが“立つ手伝い”なんすか!?」
「床のお掃除をするだけだもん。どうせ海里 は這いつくばって、オレに跪いてお掃除するんだから、床に降りられればオッケーでしょ?」
「……そういう問題じゃ」
そういう問題じゃない。そもそも掃除の仕方だって問題がある。悪びれもせず笑顔で言い放つ柚陽 を、殴りたい衝動に襲われる。つーか海里の前じゃなかったら殴ってた。
柚陽であれば脅してもなんでもなく、本当にソレを強要しかねない。たとえ床に落ちた薬品が、口から摂取するのは危険なものであっても、柚陽は迷わずに言うんだろう。明るくて無邪気な笑顔で「舐めなよ」と。
そんな柚陽に「そういう問題じゃないっす」反論しようとした言葉は、他ならぬ海里自身に遮られた。
「うん、オレ、床に降りられれば、お掃除出来る。床も綺麗にするし、ゆずひの靴も綺麗にするから、だから」
「綺麗にさせてください、キモチイイのください、でしょ? オレ、別に海里なんて怖い人のいっぱいいるトコに捨ててきちゃっても良いんだよ?」
「それは、やだ!! オレはゆずひのそばが良い!!」
なんで、なんでこんな事されて、言われてまで、柚陽といようとするんすか。まだ触れたままになってた海里の手は、こんなにも冷たくて、震えてるのに。
「……自分のいたい場所にいて、良いんすよ?」
思わず海里に呟けば、海里は小さくと、でもはっきりと首を振った。陸斗の頬を、海里の冷たい手がそっと撫でる。
「オレはゆずひのそばにいたいの。だって、それがオレの幸せだから。オレの幸せがキミの幸せになってくれるなら、オレは、ゆずひと一緒にいたいの」
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