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アンタの幸せの定義

「っ、」  咄嗟に海里(かいり)を抱きしめそうになって、それをどうにか止める。今の海里なら、もしかしたら怯えないかもしれない。今の海里は、全てを忘れているのかもしれない。でも、だからってオレの罪が消えてなくなるワケでもないし、オレに抱きしめる資格がないなんて、分かりきっているから。  それでも今、海里から聞かされた言葉は、陸斗(りくと)の心を深く深く抉っていく。痛い。痛くて、冷たくて。  なんで。オレのことなんて、そんなに考えなくて良いのに。覚えている余白があったなら、そこに入れるべきは陸斗じゃないっすよ、海里。  海里の手は、冷たい。陸斗の手もあたたかい方ではないけれど、海里よりはあたたかい。それでも触れた手から海里に温度は伝わってくれなくて、冷たいまま、震えたまま。  幸せって、なんなんすか。  冷たい手のまま、震えたまま、それでも「ゆずひといて、幸せ」なんて語る海里の手を、そっと遠慮がちに撫でながら陸斗は思う。  こんなにも怯えているのに、海里は「幸せだ」って言って。  柚陽(ゆずひ)と一緒にいれば自分が幸せだから。だから、自分は柚陽といるんだって語る。陸斗の幸せが、海里の幸せだと言ったから。  幸せってなんだったんだろう。海里と一緒に過ごした時間を、陸斗はぼんやりと思い返した。  空斗(そらと)には確かに嫉妬した。だけど空斗を言い訳に、まんまと柚陽の策にハマって、この手で壊してしまったあの日は、幸せだったと思う。海里も、そう思ってくれたって、信じたい。  何にも興味を持たないで、ただ毎日を消化してるだけだった陸斗に、色をくれた人。興味、関心、好きだっていう感情。大切にしたいっていう意思。あれが幸せだと思っていた。  なるほど、「好きな人を壊したい」って言った柚陽にとっては、コレが幸せなんだろうけど。でも、じゃあ、海里の考える幸せって、なんなんだろう。 「アンタはさ、幸せって、なんだと思う?」  海里を混乱させてしまうだけかもしれない。だから余計な事は言わない様にしないと。  そう思っていたはずなのに、あまりに痛々しい海里の様子に、足の包帯に、震えの止まらない手に。ぽつり、陸斗の口はそんな言葉を発していた。

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