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「えっと、心がぽかぽかしてる、こと? あったかくて、やさしくて、心がそんなものでいっぱいになってるの」
たとえば、ここで、海里 が本来の「幸せ」とは違う言葉を口にしてたら。まだ救いはあったのかも、しれない。
救いようがないくらい壊れきっているけれど、もう手遅れかもしれないけど、まだ。
でも言い方こそ、今までの海里に比べれば、ひどく幼くなっていたけど、海里が口にした「幸せ」の意味は、一般的に言われているようなものと、それほど大差ない。
幸せの意味は理解していて、けれど自分にとっての幸せは「柚陽 といること」だと語る海里は、震えていて、冷たくて。とてもじゃないが、柚陽と一緒にいる事で海里の心に「あったかくて、やさしいもの」が満たされてるとは思えない。
「……今の海里、冷たいっすよ。柚陽と一緒にいて、心の中はあったかいっすか?」
「ううん、あったかくはない、けど。でもオレは、ゆずひと一緒にいたいの」
せめて、本当にせめて、ここで海里が頷いてくれていれば、良かったのかもしれない。そうすれば壊れていても、歪んでいても、たとえ海里の本能がこの状況を拒んでいても。壊れてしまった海里の心は、“コレ”を幸せだと思い込んで、緩やかに閉じていけただろうから。
傍目に見てどんなに痛そうでも、本人が痛くないのなら。少なくとも、「幸せ」の意味を覚えていて、自分が「ソレ」に該当しないって分かっていて。それでも「オレは幸せだよ」なんて、壊れた笑顔を浮かべるより、遥かにマシだ。……マシってだけで、これも「幸せ」とは呼べないっすけど。
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