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「あったかくないのに、どうして柚陽(ゆずひ)と一緒にいたいんすか?」  止めた方が良いと、どこかで警告が聞こえる。陸斗(りくと)の脳内に響く警告は、陸斗の声をしていた。  海里に問い掛けながら、迷っている。海里(かいり)を助けたい。でも、却って傷付けることにならないだろうか。しょせん、独りよがりなんじゃないだろうか。その迷いが自分で自分に警告を促す。  だけどその警告を、陸斗は、結局振り切った。  幸い、海里の顔を歪めることはなかった。海里は陸斗の言葉にきょとんとして、それから、柚陽を1度見た。  釣られるように陸斗も柚陽を見れば、いつも通り無邪気に微笑んでいる。そんな笑顔に、ぞっとした。  そのあとで、海里が平然と口にした言葉は、陸斗の胸を突き刺して、脳を揺らした。もう柚陽が動画を見せた時に、病室を覗いた時に、絶望なんて見尽くしたと思ったのに。おそらくは病室の外で話を聞いている波流希(はるき)達も巻き込んで、海里は……違う、柚陽は、更に絶望へと突き落とすんだ。「えへへー」なんて、無邪気で幼い笑顔を浮かべながら。 「ゆずひが、オレの幸せは、ゆずひと一緒にいることだよって、オレに教えてくれたんだ」

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