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言葉自体は単純だ。わざわざ聞かなくたって想像できたことじゃないっすか。それでもいざ海里 本人からソレを聞いた時、陸斗 の頭は真っ白になっていた。でも、それも一瞬。一瞬後に浮かぶのは、柚陽 への強い怒り。そして、柚陽の提案を呑んでしまった自分への。なんでもっと上手くやれなかったんすか。もう少し考えればマシな方法だってあったかもしれないのに。そうやって後悔したって、当たり前だけどもう遅い。時間は戻らないのを、陸斗はよく知っている。
後悔したって、なんにもならないんすわ。罪は消えない。償えたとしても、なくなるワケじゃない。
海里に触れていない方の手を、強く握り込む。痛みなんて感じてる余裕はない。それでも、海里の目に入らないように注意はして。
「そうだよー。おバカで、下もゆるゆる、セックスしかできない海里は、オレと一緒にいないと幸せじゃないの」
「お前、いい加減に黙れよ!!」
「ひっ」
柚陽の言葉は、今の今まで堪えていた港 の理性を焼き切ってしまったのだろう。怒りと憎しみに満ちた声が響いて、けれどそれで怯えたのは言われた本人ではなくて、海里の方。
がたがたと震えて。片手で自分の頭を抱え込んで。「やだ、ごめんなさい……ちがう、だいじょうぶ、オレ、がまんできる……」なんて呟いて。
まるで縋る様に、陸斗に触れている手を、ぎゅっと、握って。
「ちょっとー、あんまり大きな声出さないでよねぇ。海里がびっくりしちゃうでしょ」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
「ね? 海里。みんな海里を怒ってるんだよ。りっくんには幸せでいてほしいんだよね? じゃあ、どうすれば良いか分かるでしょ?」
無邪気な笑顔で港を責めたのと同じ口で、今度は海里を責める。無邪気な笑顔で、だけどその裏には、「絶対に海里を離さない」っていう意思を感じられる。
だからこそ、波流希 と港を切り離したんだろうけど。
柚陽の言葉に、海里は必死でこくこく頷いて、「お部屋、綺麗にする」「ゆずひに、いっぱい、シてほしい」なんて涙声で訴えている。「だから、だからオレをゆずひのそばにいさせて」って。
なんで、なんで、ここまで「柚陽のそば」に執着するんすか。マンションの時も、壊れてしまっていたけど、柚陽には執着してなかった。「誰か」のご機嫌をとって、「誰か」から怖い事をされないように、痛い事をされないように必死だったのに。
今は「柚陽」のご機嫌を取って、痛い事も、怖い事も受け入れて、「柚陽」から離れたくないと必死になってるような。
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