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お願い、幸せになって。
「え……」
目の前で海里 の顔が歪んでいく。寂しそうに、痛そうに。見開かれた目が涙に潤んで、揺れていた。ああ、痛い。こんな顔をさせたかったワケじゃないのに。罪は償えなくても、触れる資格はなくても、せめて悲しませることはしたくないって。
自分のした事を「仕方なかった」なんて言うつもりはない。自分の胸が痛むのを感じながら、陸斗 はただ笑みを浮かべて海里を見つめている。
責められてもおかしくないのに、港 たちの責める声は聞こえてこなかった。
きゃはは、なんて弾んだ柚陽 の笑い声に重なるように、「陸斗、お前」なんて囁くような呟きが聞こえた気がしたのは、幻聴にしても調子良すぎっすかね。
柚陽は楽しそうに笑いながら、少しだけ、それでも海里に触れるためには離れすぎてる距離を縮める。「えへへー、えへへー」なんて嬉しそうに、歌うように。
「嫌われちゃったねぇ。カワイソウな海里。やっぱ海里にはオレしかいないんだよ」
言いながら、柚陽が海里に手を伸ばす。正直、コレは陸斗にとっても賭けだった。最悪柚陽の言葉がもっと海里に染み込んで、柚陽の理想通りになっていってしまうかもしれない。どんどん、依存していってしまうかもしれない、って。
果たして海里は、
「やっ……、いやだ、こっち、こないで……」
怯えきった顔を向けて、柚陽から離れようとまともに動かないだろう足を引きずりながら、ベッドの上で後ずさろうとしている。細くなってしまった腕で、自分の頭を庇おうとしながら。
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