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さっきまでは、震えながらでも柚陽 を肯定し、受け入れようとしていた海里 が明らかに自分を避けた。その事態を柚陽は一瞬理解出来ないというようにぼうぜんとして、それから飲み込んだんだろう、「チッ」なんてハッキリとした舌打ちを漏らした。
そんな舌打ち1つにも海里は大きく体を揺らして、「ゆるして……ゆるしてぇ」なんて、うわ言を口にする。
「やってくれたね、りっくん。結構苦労して海里にはオレだけだ、って思わせたのに。こうもあっさり拒絶されちゃうなんて思わなかった」
言葉に反して、声音は明るい。「あははっ」なんて楽しそうな笑い声も混ざってる。だけど表情は一切笑っていない。それどころか陸斗を心底憎らしそうに睨んでいる。
とんだアンバランスさっすねぇ。下手なホラーより恐怖映像っすよ、これ。少なくとも危惧した方に転ばなかったのに安心して、陸斗にはぼんやりと、そんな見当違いな事を浮かべる余裕が出来ていた。
とは言っても、海里の様子を見てしまえば、手放しの安心はできないんだけど。
「まあ、アンタがそーいうシュミで良かったなぁなんて思うっすよ。不幸中の幸いってヤツっすね。甘やかして甘やかして、そうやって依存させたんだとしたら、引き離し難かったんで」
「あー、そっか。オレは自分の欲求に素直過ぎたのがいけなかったんだね」
「なるほどー」なんて歌う様に言いながら、柚陽は背筋を凍らせるような目線を海里に、それから陸斗に向けた。
幸い、最初から柚陽に恐怖していた海里は、その目を直視しないで済んでいた。陸斗の方は情けなくも背筋を凍らせる羽目になったけど。メデューサって案外実際に存在するかもしんないっすねぇ、恐怖から逃れるようにそんなことを考える。
そんな陸斗に、もう余裕を取り戻したのか、にっこり笑う柚陽が、
「オレは諦めないから。覚悟しててね? 海里、りっくん」
明るく、無邪気にそう告げて、病室から足音を立てて出て行った。多分、わざと大きな足音を立てて。
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