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 病院を出て、もう暗くなった道を陸斗(りくと)は1人歩く。そんな資格は一切ない。分かってる。分かってるけど、やっぱり海里(かいり)の事が気になって。だけど振り返る事はせずに、重い足を引きずって歩いた。 「それにしても」  多少不気味かもしれないけど、陸斗は敢えて自分の考えを口に出す。そうしないと余計な事考えちまいそうっすからねぇ。  自覚以上に自分はもっともっと弱かったらしい。強かったら本当に大切なものから、ああも簡単に手を放してしまわないだろうに。  ポケットを探りつつ考える。今持っている荷物は、そんなに多くない。ケータイとか、財布とか。 「どこに帰るかが問題っすねぇ……」  海里との家を飛び出して行って、柚陽(ゆずひ)の家に転がり込んだ。柚陽の家に戻る気なんてないし、海里との家には戻れない。そうなると陸斗は今、帰る家がないワケで。  実家に戻ろうにも今から戻るには時間が遅いし、財布に入れて持ち歩いている金額では心許ない。 「ビジネスホテル……も、連泊は厳しいし。漫喫か、カラオケってトコっすか? さすがに何日か泊めて欲しいって頼める友人はいないし」  そんな友人がいたところで、頼めるはずがない。頼むにも理由を求められるのは確実で、今陸斗が抱えている「帰れない理由」は、自業自得とは言っても、そんなにペラペラ話せる事ではないし。 「……取り敢えず、海里が退院する前に荷物を纏めておくべきっすね。しばらく漫喫あたりで時間潰して、マンション探さないと……」  今の荷物は、多くない。ケータイとか、財布とか。  そして結局1度も手放せずにいた、海里と暮らす家の鍵、とか。

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