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 陸斗(りくと)が家を飛び出してから、もう何ヶ月も経っている。だから陸斗自身細かいところまで、正確に覚えているワケじゃない。それでも、陸斗の部屋は飛び出した時から大差なかった。もしかしたら、そのままかも。  ただ少しだけ埃っぽい。それはそうだろう、誰も使う事なく、何ヶ月も放置されていたら、どうしたってそうなる。でも、陸斗が家を飛び出したのは何ヶ月も前だ。本来ならもっと埃が堪っていてもおかしくない。まるで陸斗がほんの1ヶ月前に飛び出したかのような。 「……海里(かいり)、やっぱアンタ、やさし過ぎるって言うより、バカっすよ」  ぽつりと呟いた声は震えていた。  海里はなにも悪くない。それなのに海里に全てを押し付けて、あろうことか、トラウマを抱えているだろう海里の不貞を疑って糾弾して。  そんな男、もう帰ってこないと思って良いのだ。放っておいて良いのだ。むしろ積極的に追い出してしまえば良い。荷物だって全部全部、捨ててしまえば良いのに。  飛び出したのが1ヶ月前だったかのような。それだったら、どんなに良いだろう。まだ救いがあったかもしれない。まだあの時の陸斗は、取り返しがついたかもしれない。  柚陽(ゆずひ)が不穏な行動を始めたのは、(みなと)たちが海里と連絡できなくなったのは、約1ヶ月前と言える。  ほんの少し埃っぽいだけで、あとは綺麗な、なにも変わっていない自分の部屋に。  陸斗はついに、ぷつん、糸が切れた様にその場へと座り込んだ。

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