299 / 538
10
おかえり、陸斗。帰ってきたワケじゃないかもしれないけど。
勝手に悪いけど衣替えをしておいたから、着替えるにしても、服を取りに来たにしても、気を付けてな。
お前が気に入ってるジャケットは、ウォークインクローゼットの方に入れてある。荷物を取りに来たなら手間だろうけど、そっちまで行ってくれ。
体には気を付けてな。
その紙には見慣れた、海里 の整った文字で、海里のやさしさが詰められていて。そのやさしさで、胸が締め付けられる。
震える手で引き出しの1つを引けば、陸斗 が家を出る前と、服の配置がまるっと変わっていた。どれも丁寧に見易く、陸斗がよく着るものや素材についても配慮しながら、並んでいた。
身勝手に家を飛び出したのに。ひどい事をした。暴言を吐いた。それなのに。
泣く資格なんて自分には無い。痛いほど分かっていたけれど、じわり、目に涙が溜まるのを自覚した。
「海里、ごめんね……。オレは、オレはアンタのやさしさを裏切ってたんだ……」
涙をこらえようと、震えた声で呟く。それでも堪えきれなかった涙が、床に、海里からの手紙に落ちた。
ともだちにシェアしよう!