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 どれくらいそうしていたんだろう。気が付けばタンスの前に座り込んでいた。だいぶ泣いていたらしくて、目がなんだか腫れぼったい。  本当情けないっすね。それから、救いようのないバカ。自分を責める言葉なんていくらでも浮かんでくる。でも、自分を責めたからって何かが変わるワケでもない。  涙が落ちたせいで少し端のほうが寄れてしまっているけど、それでも大切に持っていた海里(かいり)からの手紙に目を落とす。時期的に陸斗(りくと)があんな事をした後、だったのに。 「大事なものが何かも分かってない。ガキ以下の我儘だったのはオレで、オレは大バカ者だけどさ、海里だってケッコーなバカっすからね?」  自覚よりも泣き過ぎていたみたいだ。掠れきった声、まだ震えの残る声で陸斗はぼんやり呟く。部屋を開けた時も思ったけど、海里は本当にバカだ。ほんとならオレのこと、恨むべきなんすよ?  もちろん、本当にバカなのは自分の方だと陸斗にはもう、分かっている。自分のつまらない我儘と嫉妬で、まんまと柚陽(ゆずひ)の思い通り。  自分の手で海里を壊した。波流希(はるき)が、海里の過去を語ってくれたのに、それさえ無視して。  もう本人に伝える術なんてないし、口にするのも烏滸がましいんだろうけど。  陸斗はぼんやりと手紙を見つめる。幸せがいっぱい入っていたこの箱は、もう、空っぽになっていた。全部陸斗が、逆さまにしてひっくり返したから。  それでもずっと陸斗の幸せを願ってくれていた海里が、まだ陸斗に与えてくれたソレは、どこか悲しくて、痛い。  本人には言えない。こうして伝わるとも思えない。それでもまだ、幸せの残像を見せる手紙に向けて、ぽつり、陸斗は呟いた。 「……お願い、海里。アンタは幸せになってね。今更っすけど、オレ、やっと気付いたんすわ。アンタに、幸せになってほしいって」  もう「2人で」幸せには、なれないけれど。  せめて海里には幸せになってほしい。  また、笑ってほしい。  そう強く願って、強く念じて。陸斗は、この家を後にするための準備を始めた。

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