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友人が去っていった方をぼんやり見つつ、陸斗 は1つ溜息を漏らした。もっと早くに“こう”なってれば良かったのに。今更後悔したって遅い。小さく苦笑を浮かべたところで、無邪気な声が聞こえてくる。
目線の先に誰がいるかなんて、分かってる。柚陽 だ。海里 はあれから一切大学に来なくなったって言うのに、柚陽は相変わらず、いつものように大学に来ている。それで、友人達と面白おかしくお話してる、って感じで。
……まあ、柚陽が悪いかって言えば、悪いには悪いんだけど。結局原因が誰にあるかって言えば、まあ、オレだし。
柚陽を捕まえて「なんでアンタは日常生活を送ってるんすか!!」って叫ぶことは出来ない。
だって柚陽を恨んで良いのは、海里本人。それから波流希 と港 なんだから。オレに恨む権利も資格も、あったもんじゃない。
とは言っても、腹が立たないって言ったら嘘だ。自然、顔がしかめられてしまう。
多分友人達は「別れた相手の声がして気まずい」程度に思ってくれるはずだ。なんせ、海里との件が有名だっただけに、柚陽との件もそれなりに話題に上がっていた。だから少しのしかめっ面くらい、許容範囲内のはず。
「りっくん、大変みたいだねぇ。でも、余計な事をした、ジゴージトクだよね?」
にぱっ。明るい笑顔を浮かべながら、明るい声で、だけど周りには聞こえないくらいに抑えた声で。通りすがりに柚陽は囁いた。
それを「控えめなしかめっ面」のまま聞き流す。自分の思惑が外れたのか、それさえも演技なのかは分からないけど、小さな舌打ちが聞こえてきた。それも無視だ。
柚陽も友人達に囲まれて去っていく。その気配が完全になくなってから、陸斗は部屋探しを再開すべく手元のケータイを操作した。
条件はそこまで多くない。まあ、大学に通いやすいと良いかなぁなんていうのはあるけど、重要なのはそこじゃなくて。
うっかり海里が陸斗の姿を見てしまわないように。
一緒に暮らしていたマンションはもちろん、波流希の家からも離れていること。それが1番の優先事項だ。
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