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「そっか。まあ、今のお前じゃそう考える気はしてたけど。ただ、それ、海里 が言ったのか? 陸斗 がいるのは不愉快だから、怖いから、家を出てってほしい、って」
「言われてないっすけど、どう考えたってオレと一緒にいたいワケないじゃないっすか。……柚陽 がしたのと同じような事、最初にしたのはオレなんすよ」
自習室でのあの光景は、陸斗の脳に焼き付いて離れない。あれだけの事をしでかして、果たして「一緒にいたい」なんて思う人間はいるだろうか。答えは簡単。否、だ。
むしろ顔を見るだけで怯えさせてしまうかもしれない。これ以上、海里を怖がらせたくないという思いから、海里が退院する前に家から出て行ってしまうのは、それこそ「当然」の対策だろうに。
そう思っている陸斗の内心を見透かしたように、「だからバカって言ったんだよ」苦笑を浮かべて、港が言う。いや、意味が分かんないっす。
「お前には酷なコト言うけど、オレだってお前を許してるワケじゃねーし、はっきり聞かせてもらうぜ? お前がアレをしたあと、何度か海里と顔を合わせてると思うけど、そん時海里はなんて言ったか、覚えてるだろ?」
「それ、は……」
忘れるワケがない。忘れるワケがないからこそ、陸斗は言い淀んだ。
妙な方向に曲がってしまった足を引きずりながら。恐怖で顔を引きつらせながら。波流希 と港 にさえ怯えながら。
海里はいつでも「幸せ?」そう問い掛けた。幸せなら復讐したい、なんて言うコトなく。しまいには、陸斗の幸せのために柚陽 と一緒にいたい、なんてような事を言ったくらいだ。
感情のままに唇を噛み締める。それが、どんな感情から来ているのか、分からない。でも、そうしなきゃいられなくて。
「覚えてる」。そう言葉にしなくても、陸斗の表情で十分だったんだろう。
港は、まっすぐに陸斗を見つめて、それから、また聞いた。
「陸斗といたくないから、出て行って。そう、海里が、言ったのか?」
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