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「……資格はないって、十分分かってるんすよ? でも情けないよね、思い出しちゃうんだ。部屋に戻ったのがいけなかったのかもしれないっす。海里 からの手紙を見て、海里との写真を見て。もう、2人では幸せになれない、って、分かってたはずなのに」
マンションを決めるのに悩んでいた理由は、もちろん、1番は海里と会わないこと。100パーセントは有り得なくても、会わない可能性は高ければ高い方が良いから。
でも心のどこかでオレは思っていたのかも、しれない。ぼんやりと陸斗 は思う。
それなりの大荷物を抱えて、カウンターで受付をする。それは「世間一般の」帰宅とは言い難いだろう。
それなら、感じなくて済むから。扉を開けても海里がいない事を。どんなに待っても、海里が来ない事を。
だから、ずるずると漫喫生活を続けていた面はある。ほんと、情けないっすね。我ながらぶれぶれっすわ。
散々柚陽 にデレデレして、それが幸せだと思い込んでいたのに。
なにより、あれだけの事を海里にして、悔やむどころか「これで幸せになれるんだ」なんて心底から笑ったのに。
そんなオレにはもう、あのぬくもりは手に出来ないと分かっていた、のに。
「……ほんと、お前はバカだよな」
「分かってるっす……」
「そーいう時は、寂しかった、で良いんだよ」
「……アンタの前でソレ言えるワケないじゃないっすか」
被害者の前で加害者が寂しかった、なんて、絶対に言えるはずがない。そう思う自分にさえ、腹が立つというのに。
港 は、そんな陸斗の内心を分かっていたのかもしれない。
「ニヤリ」なんて、意地の悪い笑い方をして。
あの日、「復讐だと思って答えて欲しい」そんな風に言ったみたいに、
「なら、ほら。これがオレからの復讐だと思って、素直に言ったらどうだ? 責めねーし」
「……親友同士って、似るんすかねぇ」
そんな港に、どうにかこうにか、苦笑は返せた。と、思う。
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