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「……どこまでお人好しなんすかね、あの子は」  (みなと)の言葉に、ズキリ、胸が痛むのを感じる。散々傷んだはずなのに、「自業自得っすよ」と言い聞かせてるのに、この胸は痛みに慣れることもなく、ズキズキと痛みを訴えるのだ。……まあ、罪悪感を持たない頃に戻っちまったら、流石に人として終わりだと思うっすけど。  思わず呟いた陸斗(りくと)に、「まったくだ」なんて、うんうん頷きながら港は言うけど、アンタも大概っすからね。 「でもまあ、海里(かいり)がやさしいのは確かだけど、アイツがお前に対して寛容なのは、やさしいから、ってだけの話じゃねーよ」  続いた港の言葉は予想外で、陸斗は目を見開いた。だって、だって、そんな言い方じゃ。  空斗(そらと)が来てから自分のした事を思い出す。言ったことを思い出す。  我ながら呆れるようなワガママ。自分のことだけど、殴っても殴っても殴り足りない怒り。  オレは確かに、そんな態度を取ってしまったというのに。 「……あまり理解者ぶって語るつもりはねーし、コレは海里が言うことだからな。ただお前は、本当に海里に償いたいなら、悪いって思ってるなら、姿を消すな。ここで海里を迎えてやれよ。な?」 「港……」 「これがオレと先輩からの復讐だ。……オレとしては2、3発殴ってやりたいんだけど」 「だから良いっすよ? 5発でも、10発でも」 「だーかーら! 海里が嫌がる事はしねーの」  ねぇ、海里。やっぱアンタ、ちょっとおバカさんっすよ。オレの事なんて、恨んで良いのに。  でも。アンタがそう言ってくれるなら。アンタがチャンスをくれたなら。  ぐっ、と、陸斗は自分の拳を握りしめる。痛みや怒りに耐えるためでもないし、手の中の幸せを握り潰すためでもない。あいにくと、この手の中は空っぽだ。そもそも同じ罪を繰り返すつもりだって毛頭ないけれど。  息を吸い込む。ほんの少しだけ埃っぽくて、肺を刺すような冷たさを持った空気が、陸斗の体内を巡った。  この部屋を、からっぽで、冷たくなってしまった部屋に。「前と同じ」なんて言えないけど、それでも、精一杯「あたたかさ」と「幸せ」を詰めて、 「……分かったっすよ。この家で、海里の帰りを待ってるっす」

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