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「つーかアンタこそ、電話してくるって、どういうつもりっすか……」
怒りこそその声には篭っていないが、呆れが露わになった声で陸斗 は電話越しに問い掛ける。
多分あれは柚陽 の演技だっただろうけど、言外の意を汲めないくらい素直なド天然であったとしても、「なにかおかしい」と感じさせてしまうくらいには、呆れきった声。もちろん柚陽には通じていただろうに、きょとんとしている気配が、電話越しにも伝わってきた。「え?」なんて不思議そうに言いながら、こてん、いつものように首を傾げてるんだろう。
「用事があったから電話したんだよー! 電話ってそういう時に使うよね? りっくん、知らなかったの?」
「……そうっすね。アンタはそういうヤツっすわ。それで? その用事は、なんなんすか?」
ここ最近、特に陸斗がまたこの家で暮らし始めてから大学での柚陽は妙だった。
“一応”付き合っていた頃のようにベタベタしてこないものの、距離が異様に近い。
他の友人と話していても、陸斗の姿を見ればその友人を放って駆け寄ってくる。それも、きらきらとした満面の笑顔で。
それから、しばらく「あのねあのね」言いながら陸斗にまとわりついて、「ううんー、やっぱりなんでもなーい」そう、歌うように言って去っていく。
イライラもするし、何より柚陽のしたこと、その切っ掛けが自分にあった事を思えば、恨みとは別に痛みだって感じる。もし柚陽が陸斗に嫌がらせを仕掛けているのなら、その効果は絶大だろう。
不幸中の幸いだったのは、周囲の見る目がかつてとは変わっていた事、だろうか。これで以前のように白い目を向けられでもしたら。海里 の名前が挙げられでもしたら。
自業自得と受け入れている反面、柚陽への感情がどう爆発するのか、自分でも分からなかった。
そんな柚陽が、今日になって電話をしてきた。何度も何度も。
何度も何度も無視したけれど、それももう限界だった。物申してやろうと言うのもあったし、陸斗が持つ苦い記憶たちが柚陽を無視することに警鐘を鳴らした。コイツの行動は把握しておかないといけない。先回りできるくらいじゃないと、遅過ぎる。
その警鐘が、陸斗に着信履歴をタップさせた要因だろう。
えへへー。陸斗の言葉にもったいぶって笑った柚陽が口にしたのは、
「りっくんさぁ、ほんとに海里と幸せになれるって思ってるの?」
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