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「りっくんにも言ったよね? あれがオレの愛の形だって。オレは好きな人を壊したいの。潰して、壊して、オレだけの物にしたい。体もぼろぼろ、心もぼろぼろ、誰にだって足を開く淫乱ちゃん。大好きな人ほど、強く、取り返しがつかないくらいに、壊したいんだ! りっくんの言い方を借りるなら、ゴミにしたいの。だから海里 もそうしたんだぁ。邪魔が入っちゃって、中途半端になってるけど」
ぞっとした。吐き気がする。気持ち悪い。
電話を手にしたまま、思わず膝を折りそうになったが、座り込む事だけはどうにか堪える。
壁によりかかりながら、どうにかさっきまでの立ち姿勢を取り戻した。
「それを愛と語るなら、海里たちに近付かないでほしいっすね」
「愛だよ。オレにとってはこれが愛。オレは海里が大好きだから、愛してるから海里を壊したの。でも、りっくんはどうかなぁ? りっくんは海里が憎くて憎くて仕方なかったから、復讐としてあんな事したんでしょ?」
だけど、虚勢のようなそれは、長くなんて保たなくて。
ケータイを持つ手は今にも落としそうに震え、足もガタガタと震えている。普通に立っているのも困難で、「情けない」頭の片隅でそう思いつつ、陸斗 は壁に手をついた。そうでもしなければ、立っている事さえ出来ない。
頭の片隅でしか「情けない」と思えないほどに、陸斗の頭を、思考を、恐怖が満たしていく。恐怖が広がっていく。気持ち悪い、気持ち悪い、キモチワルイ。
でも柚陽 はそんな陸斗に構わず。あるいは、陸斗のその様子を察して、くすくすと、楽しそうに、無邪気に笑ってみせる。
耳に当てた電話が、絶えず柚陽の笑い声を届けていた。
「1度でも海里を、あんな風に心底から憎んで、恨んだ相手にさ、海里はほんとに幸せに出来るのかなぁ? 1度でもあれだけ恨めた相手と、りっくんは本当に幸せになれる?」
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