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幸せの破片
「なんか、怖くなるくらい静かっすねぇ……」
自分の部屋でケータイを眺めつつ、ぽつり、陸斗 は呟いた。
柚陽 からの電話以来、普段以上に警戒をしてはいる。してはいる、けど。まるでそんな陸斗たちを鼻で笑うように、なにも起きてはいなかった。もちろん、だからと言って大丈夫だろうなんて油断はできないのだけど。
近況を報告しあおうと言っている港 からの連絡も、「柚陽の姿も不審な影もない」っていうのが続いている。もちろん何もないに越した事はないんだけど、相手が柚陽となると怖いんすよねぇ。
嵐の前の静けさってヤツじゃないけど、なにもなかった分、何倍にも何十倍にもなって恐ろしいことになりそうで。
柚陽の件ではなにもなかった分、海里 の体調は回復してるみたいで、それはそれで安心できる。最近は少なくとも港と波流希 で話している時には、自然に話すようになっているというし、足の怪我も少しはマシになってきてるらしい。
そんな状態だからこそ、なおさら、柚陽のことには敏感になってしまうもので。
“オレの方も特になにもないっす。いつもどおり大学に来てるし、サボってるって事もねぇし”と返信を1つ。
事実あれから陸斗は自分の授業を抜けたり、授業がない日に大学へ行ったりと様子を見てるけど、柚陽は自分のいるべき教室で講義を受けていた。念のため友人何人かに確認もしたけど、普段通りだって言ってたし。
なにもないのは良い事だけど、沈黙は怖いし、柚陽に先んじて行動するには、ちょっとこの状況、マイナスっすねぇ。
はあ。どうにもならない現状に溜息を1つ。ガシガシと髪を掻くけれど、それで解決するような問題じゃない。
そんな風に焦れていた時だったから。
柚陽が、いつ、何をするか分からないような状況だから。
なんの変哲もない、チャイムの音で、陸斗の心臓は嫌な跳ね方をした。
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