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「さっきも言ったっすけど、ここはオレの家っすよ。柚陽(ゆずひ)もここにはいねぇっす」 「そう、ですか……」  紗夏(さな)が目に見えてしゅんとする。この子柚陽のなんなんすかね。嫌な予感がするっすけど。  じっと目の前の青年を見つめる。不躾、とも言えるような目線はさすがに気になったのか、ぺこん、また紗夏は頭を下げた。  上げられた顔には初対面の陸斗(りくと)にも分かるくらい、寂しそうな顔をしてる。柚陽のことは恨んでさえいるけど、こんな顔をされると胸がずきり、痛むのは、雰囲気があの日の海里(かいり)に似ているからだろうか。 「……アンタ、柚陽のなんすか?」 「……なん、でしょう? 自分でもよく分からないです」  聞いたのは、紗夏を気にしての事じゃない。  少しは気にしてたけど、半分は今、柚陽が何を考えてるか悟れないかと思ったからだ。  でも返ってきたのは弱ったような、困ったような、そんな顔。半分は打算で聞いたのに、思わず息が詰まってしまう。  ただ、陸斗の脳裏に浮かんで離れないソレが本当だと示すように。紗夏の白い手が、自分の包帯にそっと触れた。  ……ほんっと、嫌な予感しかしねぇっすねぇ。  不快感を飲み込むように唾を飲みつつ、陸斗は考える。もちろん、今回は空斗(そらと)のようなパターンを念頭に置いておきながら。 「……アンタ、柚陽と何があったんすか?」

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