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「アンタさ、その流れはちょっと強引すぎるって思わない?」
「図々しいのは自覚してます。でも、でも、やっと柚くんに会えそうで、だから」
「図々しいとかじゃなくてさ、この近くで生活する方法なんていくらでもあるし、わざわざオレの家を選ぶ必要もないっすよね? さっき言ってたのは全部嘘で、柚陽 になんか頼まれたんじゃないっすか?」
あまりにもストレート過ぎたかもしれない。そんな風に思いながらも陸斗 が問い掛ければ、意外な事に紗夏 はフォローするでも否定するでもなく、「ふふっ」と静かに笑った。
さっきまでの遠慮がちで少し落ち込んだような素振りもなくて、そんな状況ではないけれど、脳が現実逃避するように「オレって見る目がないんすかね?」と考えて、わずかにへこむ。
小さく首を傾げる動作は、柚陽を意識したんだろうか。紗夏は首を小さく傾げて、いたずらを企む微笑みを1つ浮かべると、
「バレちゃいましたか?」
あっさりと“頼まれた”と認めるような言葉を口にした。
港 との連絡手段であるケータイを思わず強く握り締めながら、「それにしても分かりやすすぎるっすね」そう、怪訝に思った。空斗 の方が、まだ器用にやってみせたくらいだ。
「はい、柚くんから頼まれました。「りっくんを惑わせて、海里 への関心を逸らして欲しい」って。ただ1つだけ訂正させてください」
包帯が巻かれた方の腕を持ち上げて、紗夏は人差し指を立ててみせる。そっちの腕を見る目に、どこか熱が感じられた気がするのは、気のせいっすかね?
にこっと、好青年を思わせる微笑みを浮かべて、紗夏はまっすぐ、陸斗を見つめる。なにを考えているか分からないし、“柚陽の仲間”っていうだけで、警戒するには十分だ。あまりにお粗末なやり方なのも、裏があるかもしれないし。
そんな風に陸斗が警戒している事なんておかまいなしに、紗夏は微笑みを浮かべたまま、マイペースに言葉を続ける。
「さっきの話、全部嘘じゃないんです。オレが柚くんを好きな事。それは本当ですよ。オレが身の程知らずにも代わりじゃガマン出来なくなった、オバカさんなんです」
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