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「柚くんがオレを好きになってくれるように、協力してくれませんか? もちろん、タダで、なんて言わないです。海里 さんを柚くんから守る、手助けをします」
「……それは、どこまで信じて良いんすか? オレに協力するって見せかけて、柚陽 に逐一なんでも報告する、とか。そういう可能性、オレは危惧してるっすけど」
さすがに柚陽の息が掛かった人間を「はい、そうですか」なんて簡単には信じてやれない。ましてや「柚陽が好き」と言い切った人間だ。柚陽に頼まれたら、あっさりと打ち明けかねない。
陸斗 のそんな疑いも見通してるのか、疑われるのが当たり前だと思ってるのか。どっちかは分からないものの、紗夏 は気を悪くした風も見せず、にこにこ笑いながら「まあ、信じられないですよねー」なんて軽い調子で口にする。
ここで嘘をつく意味も理由もないし、「信じてるっすよ」って言ったところで、さっきの紗夏以上に雑な嘘だ。
ごまかすのは諦めて、陸斗は素直に頷いた。
でも、やっぱり紗夏は気を悪くした風でもなく、にこにこにこにこ、微笑んでいる。
……これはこれで、却って怖いんすけど。
「簡単に信じてもらえるなんて思ってないですし、オレの言い分をあっさり信じたらちょっと問題ですよ? でも、信じてくれて大丈夫です。理由としては薄いけど、オレはもう、海里さんの代わりじゃ嫌になったんです。オレが柚くんに見てもらいたい。陸斗さんに怒られるのを承知でこの言い方をするなら、“柚くんを海里さんに盗られるのが嫌”なんです。腕の包帯だけじゃ足りない。オレをきちんと壊してほしいな、って」
「……アンタ、ちょっとシュミ悪いっすねぇ」
「知ってます。半分は柚くんの影響ですね」
とは言っても、簡単に「信じるっす」なんて返せる内容じゃない。
ずっと握り締めていたケータイを、やっと操作しだしつつ、「オレの一存で決めるワケにもいかねぇんで」陸斗は切り出した。
「ちょっと他のヤツに確認取って良いっすかね?」
「港 さんと、波流希 さんには許可を取りました。でも、オレの言い分だけじゃ信用ないと思うので、確認してください」
「……アンタ、やろうと思えば、さっきのももっと上手く出来たっしょ」
紗夏の手際の良さに感嘆より恐怖を抱きながらも、思わずぼそっと呟いた。
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