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くすくす笑いながら、紗夏 が首を傾げる。ああ、これは触れちゃダメなヤツっすねぇ。
あまりここには触れないように、深入りしないようにと決める。だからといって、現状そのものから目を逸らすワケにはいかないけど。
本人にそう言われると、少し聞くのも躊躇ってしまうけど、さすがに聞かないワケにはいかない。海里 が関わってるっすからねぇ。
「取り敢えず確認だけはさせてもらうっすわ。その間立ち話もなんだから、そこの喫茶店でどうっすか?」
「それくらいの警戒心が良いと思います。一応邪魔に来た身としては、変な言い方かもしれないですけど」
少し話をするくらいならリビングでも良いのかもしれないし、詳しい話をするなら人の目がないトコの方が良いかもしれないけど。やっぱりまだ、紗夏を入れようという気にはなれない。
不安もあるし、なんとなく海里が来るまで、少なくとも海里の知らないトコじゃ、人を上げたくない、なんて思っちまうんすよねぇ。港 たちならまだしも。
紗夏が快く了承してくれたことに安心しつつ、陸斗は財布とケータイを持って、靴を履く。
紗夏と喫茶店に向かいつつ、その間で港への連絡を済ませてしまう。紗夏のこと。紗夏の提案。それから、紗夏が本当に港たちの所に行ったのか。
多分紗夏の言葉は本当で、港も陸斗からの連絡を待っていたのかもしれない。返信は早くて、近くの喫茶店で席に案内される事にはもう来てた。
本当に来ていたという肯定と、柚陽 の行動が読めない今は頼ってみても良いかもしれないということ。ただ、それだけでは信用できないから、
「アンタ本当に全部手を回してるじゃねぇっすか」
ケータイの画面に表示された文面に、もはや関心さえしながら呟く。「確認してください」なんて、「協力してくれませんか?」なんて、よく言ったものだ。
もう、港たちと交換条件付きの約束を交わしていたっていうのに。
「港さん達にも言いましたが、オレが約束を破ったと思ったら柚くんに報告してくれて構わないですし、柚くんにも近付きません。この腕だって……ちゃんと治します」
柚陽に負わされたんだろう腕の傷は、紗夏にとって大事なものなんだろう。「治す」と言う声は、仮定の話でもそんな事言いたくないとばかりに震えている。
紗夏が今言った事はメールで送られてきた港たちが取り付けた条件とも一致するし、とりあえず少しは信じても良いのかもしれない。
ただ、それなら、なんで、
「港たちと約束したなら、それで十分っしょ? なんでわざわざオレのトコに来たんすか。つーか、先に港たちと約束してたのに、オレを騙す方を選んだら、破綻するっすよ?」
そんな、陸斗にとっては自然と湧いてきた疑問を口にすれば、紗夏は不思議そうに陸斗を見つめた。
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