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「破綻どうこうは、もしオレをあっさり信じちゃったらその時考えたと思います。プランを変えるなり、港 さんに報告してお説教してもらうなり、なんならもっと策を雑にするなり。それで、陸斗 さんに確認した理由は、もっと単純です。と言うか、わざと聞いてません?」
心底不思議そうに紗夏 に見つめられる。
その両目には嫌な感情も、バカにするような色もないのに、こんなに嫌な予感がすんのは、なんでっすかね?
また心臓の速さは増したし、空気も急に薄くなった気がした。
「陸斗さんは海里 さんの恋人なんですから、陸斗さんの許可を得るのは当然でしょう?」
思いきり、地雷を踏み抜かれた。
自業自得なのは分かっている。それでも改めて誰かから言葉にされるのは、堪えるもので。ズキズキと体中が痛む感覚。体の内側をジリジリと押し潰そうとする重みに耐えながら、なんとか口を開く。
口は開けたものの、はぐはぐと情けなく開閉するだけで、肝心の言葉が出てこないけど。
そんな陸斗を、紗夏はどう判断したんだろう。「意外でしたか?」そう首を傾げた。
「オレは柚くんが好きで、柚くんの恋愛観を知っていて。オレは柚くんに壊されたいと思っています。でも世間一般とはズレてるって言うか、他の恋愛観がある事をオレは理解していますし、陸斗さんは“好きな人を幸せにしたい”タイプだっていうのも、知っていますから。協力を頼むのはオレなんですから、寄り添うのが当然でしょう?」
そうじゃない。いや、言われてみたらその気遣いは確かに意外で、説明されて納得もしたけれど。
「オレと海里は、もう恋人じゃないっすよ。オレは海里にひどい事をしたっすから。それは別の誰かにとって愛情表現かもしんないっすけど、オレはソレを憎しみを持ってヤッたんすわ」
「でも、海里さんは陸斗さんを憎んでいないし、まだ正式に別れたワケじゃないんでしょう?」
「そんなこと……」
「とにかくオレの基準じゃ、お2人は恋人同士なので、オレなりに常識を考えて陸斗さんへの許可は必須だったんです」
これ以上、この事では話すつもりがない、とでも言うように、きっぱりと言い切られてしまった。
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