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 紗夏(さな)は、1度引っ込めた手を、また陸斗(りくと)の前に差し出そうとして、でも止めた。  「協力してくれるなら手を握ってください」みたく言われると思っていたのだけれど、違ったんだろうか。紗夏の行動を不思議に思う陸斗を前に、紗夏の方は俯き、ぼんやりと何かを考えていた。  両手を開いたり閉じたり。片手だけを、きゅっ、感触を確かめる程度の軽さで握ってみたり。  そうして気が済んだのか、ふー、息を吐き出すと今度こそ紗夏は、陸斗の前に手を差し出した。ゆっくり、ゆっくり、躊躇いながら。 「協力してくれるのなら、握手しませんか?」  言いながらも、陸斗に差し出した手は震えている。なんで急に。柚陽(ゆずひ)は良くても他人はダメ、ってヤツなんすかね?  そこまで考えて陸斗は、今差し出されてる手が、包帯の巻かれた方だと気付く。手首からぐるぐると巻かれている包帯。それは痛々しそうだけど、その言葉を全部信じるのであれば、紗夏にとっては大切なものだろう。それこそ、他人の陸斗になんて、触らせたくないくらいの。 「……逆で良いっすよ」 「え」  気付けば陸斗は、そう呟きながら、紗夏が想定しただろう方と反対の手を差し出した。「で、でも!」驚きを浮かべて、紗夏は何か言いたそうにしている。 「もちろん裏切ったら容赦しねぇっすよ? でもアンタは天秤の片方に、その手を乗せた。なら裏切られない限り、その手には触れないっすよ」  思ったままを伝えれば、「ありがとうございます」礼を返し、紗夏は包帯の方を引っ込めると、何も巻かれていない方の手で陸斗の手をそっと、でも、しっかりと取った。

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