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歪で純粋な片想い
「でも、こんなコト堂々と言って良いんすか? 柚陽 を好きなアンタの前で言うのは申し訳ないっすけど、盗聴器が仕掛けられてる可能性とか、ないの?」
ガキは嫌い。
だから空斗 とは関わろうとしなかった。そのため、空斗の時はどうだったかなんて、比べられないけど。
柚陽のことだ。こうした“お願い”をしたなら、相手に盗聴器を仕掛けてる可能性だって考えられなくもない。
紗夏 の裏切りがバレて、柚陽の怒りが海里 に向くのだけは避けたい。「失礼なコトを聞いてるよなぁ」とは自覚しつつも紗夏に問えば、紗夏は少し寂しそうに首を横に振った。
「盗聴器を管理するのだって、結構お金がかかりますからね。柚くんだって、しょせん、ただの大学生です。オレ達みたいな代用品に使うくらいなら、海里さんに仕掛けますよ」
「いや、海里に仕掛けられても困るんすけどねぇ……。じゃあこの会話は聞かれてないと思って良い? なんつーか、本当今更なんすけど」
「大丈夫です。陸斗 さん、本当に海里さんが好きなんですね」
本当に海里が。
微笑んで紗夏が言ったソレに、陸斗の胸がズキズキと痛む。
本当に海里を好きだったら、あんなコトなんてしなかったのに。海里の事を信じたし、海里を恨んだりもしなかっただろう。
オレはただ、海里に甘えて、自分だけに構ってほしかったワガママなんすわ。オレが嫌いなガキと同じ。それ以下だ。空斗の方がよっぽど大人だった。
「どうして、そう、なったんす、か?」
痛みと後悔に耐えるように、紗夏に何気なく聞き返した。けれどそれは、お世辞にも「成功した」とは言えなくて。
震えて掠れ、途切れがちになる声は、誰がどう聞いても「なにかありました」「心が痛んでます」という風にしか聞こえないだろう。紗夏にもそう聞こえたはずだ。だけど紗夏は不思議そうに陸斗を見つめて、「分かり易いじゃないですか」震えた声にも触れずに、簡単にそう返してから、首を傾げた。
「もしかして、オレが人の恋愛観を理解できるっていうの、まだ信じていませんか? 確かにオレはお察しの通り、柚くんに盗聴されたいって思いますよ? それって幸せだよね、って。だけど、それを「嫌だ」っていうのが多数派なのも、海里さんの事が心配で陸斗さんが嫌がっているのも、きちんと理解できてますから」
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