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「……なんか、あったんすか? つーか、オレがここまで疑ってるせいっすよね。ごめん」
「いえ!! そんな理由じゃないんです。オレは疑われて当然ですし、ここでオレのことをあっさり信じたら怒りますよ。と言うか、今だってオレに絆されそうじゃないですか。ダメですって」
伏せていた目を上げて慌てたように言いながら、言い切るより先に紗夏 はまた、寂しそうに目を伏せた。
本当に大丈夫っすかね。これが演技や作戦の内だったらと思うと確かに怖いし、柚陽 のことを思い出すと「信じてはいけない」「これも罠かもしれない」とは思う。それでも、まるでもって気にならない、とは言い切れなくて。
一応、紗夏に警戒しながら、
「えっと、オレのせいじゃないなら、やっぱ、なにかあったんすか? 不躾なコト聞いてるって自覚はあるし、無視してくれても構わないんすけど」
「なにかあったワケじゃないです。ただ、時々思ってしまうんですよ。10年以上の壁って厚くて高いんだな、って」
訊ねた言葉に返ってきた答えに、陸斗 は思わず顔をしかめた。10年以上の壁、がなにを示しているのかは、陸斗にも分かる。
柚陽が海里 を10年以上好きなんだから、柚陽に片想いしてるってコトは、そーいうコトなんだろう。紗夏は10年以上片想いしてる相手に、片想いしてるコトになる。
陸斗にとって海里が初めての恋人で、海里を好きになるまでは、他の事に一切興味がなかったし、きっと紗夏の気持ちを正確には理解出来ないだろう。だけど。
「……まあ、難しいかもしんないけど、約束っすからね。協力するっすよ。惜しみなく」
あはは。紗夏はやさしく、やわらかく微笑んだ。ちょっとだけ、寂しそうな顔のままだったけど。
「ありがとうございます」
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