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喫茶店を後にして、陸斗 は「送ってくっすよ」と紗夏 に申し出た。まだ気になる部分があるっていうのもあるし、正直、紗夏へは警戒してるけど、そこまで疑心暗鬼も抱いてない。でも、自分の家だけ知られて相手の家を知らないって状況は、ちょっと避けておきたかった。
まあ、陸斗の家は、チャイムを鳴らした結果陸斗本人が出てきてるから、ほとんど言い訳出来ない状態だけど、紗夏の方はやろうと思えば適当な空き家を「オレの家です」なんて言えてしまうから、信用できる情報かどうかって言われれば、微妙なんすけどね。
「送って行っても良いっすか?」
「はい、良いですよ。なんなら表札まで確認しますか?」
あー、オレの企み、バレてるんすねぇ。いざ指摘されると気まずさもあって、思わず頬を掻いた。
だからといって、確認できるものなら確認したい。もちろん、敢えて名字が同じ人間に部屋を貸してもらう、っていうテもあるだろうけど。そこまで気にしたらダメっすよねぇ。
でもそんな陸斗の思惑も紗夏は見通しているらしい。「心配ないですよー」なんて微笑んだ。
「表札を見れば理由は分かると思いますけど、陸斗さんに信頼を提供するには、まあまあだと思います」
なんでもないような話をしたり、黙り込んだり。柚陽 のことをそれとなく話したり。
もちろん、柚陽のことは許せてないんだけど。2人の恋愛観には理解できないんだけど。「……アンタ等も一応、普通に恋してるだけなんすねぇ」。口に出してから、失礼だったと気付いてはっとする。
ごめん、謝るより先に、「ふふっ」紗夏が小さく笑った。
「そうなんですよー。分かってもらえましたか?」
なんて微笑む紗夏を見て、本当にただ、恋してるだけの子なんだなぁ、なんて改めて実感してしまった。腕に巻かれた包帯は、簡単に受け入れられないけれど。
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