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「用って言うかー、りっくんのことが気になってるみたいだったから、紹介してあげたんだ。お家教えてあげて、りっくんにアタックするための背中を押してあげたの」
柚陽 の言葉を信じるのなら、昨日紗夏 が言っていたことと矛盾はない。ただ、「紗夏が陸斗 に」アタックしたいと言ったんじゃなくて、柚陽に言われての事だっていう違いがあるけれど。
紗夏は柚陽からそんな話を聞いた時、どう思ったんだろう。自分の恋を実らせるために、他の男をたぶらかしてこい、なんて言われた紗夏は。それも、他でもない、紗夏が好いている本人に。
痛かったんだろうか。辛かったんだろうか。「柚くんに壊されたいんです」なんて言ってたあの子は、こんな形での痛みは望んでいなかっただろうに。望んでいれば、代用品のままなんて嫌だと思わなかっただろうから。
とは言え、今、そこを問い詰めるのは利口じゃない。つーか、バカっすね。
柚陽が語ったソレは知っていたけれど、柚陽の言葉に陸斗はわずかな驚きを浮かべてみせる。
「へぇ。アンタが誰かの恋路を応援するなんて意外っすねぇ」
「可愛い後輩だもん。応援くらいするよ? それにね、オレとしてはりっくんがユーワクされてくれた方がありがたいんだ。りっくん、恋人を大切にするから。そうなれば、関心が海里 から逸れるでしょう?」
「……後輩の応援はついでで、あくまでソッチが本命だ、って?」
「それはそうだよー」
明るく、にぱっと笑って。柚陽は、悪びれる様子を一切見せずに、肯定した。
腹を立てちゃいけない。そう思っているのに、怒りは湧き上がってくる。けれど、
「オレはずーっと! 海里に片想いしてきた。それが実るためなら、なんだってするし、なんだって利用しちゃうよ? 港 や先輩、りっくんが海里を大切に想う気持ちだって、海里がりっくんの幸せを願ってることだって、全部、ぜーんぶ! 利用する。それを悪い事だとも思ってないよ?」
許す気なんてないけれど、認める気なんてないけれど。理解なんてできないし、したくもないし。柚陽の恋愛観には、やっぱり本能的な拒否反応しか抱けないけど。
柚陽もある意味じゃ、片想いを抱えているだけなのだと、ぼんやり思った。それが歪で、今柚陽が見せている笑顔より、よっぽど無邪気で純粋だからこそ、問題なんすけど。
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