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愛がなきゃそーいうコトをしない、って言うなら。
ドアスコープ越しに見えたあの雰囲気とか、腕の包帯とか。あれが本当に「柚陽 にやられた」ものだっていうなら、少しくらいは紗夏 に希望だってあるかもしれない、ってことだ。
紗夏本人は「10年くらいの想いには叶いません」なんて言っていた、けれど。
ただ、だからと言って、そこをそのまま「紗夏の恋が実る可能性」っていうのは、結び付けられないんだけど。
なんせ、紗夏の話を信じるのであれば「代わり」は何人かいる、らしい。紗夏はそれが嫌になったとのことだけど。
「代わり」はあくまで、「代わり」になってしまう。もしも柚陽が、そういった「代わり」の子達に、そのまま海里の代わりを求めているんだとしたら。それは平等に壊そうとしている可能性はある。紗夏だけが特別ではない、って可能性は。
それでも、多少希望があるなら、
「へぇ。じゃあ、ずっと海里 一筋ってコトは、空斗 の母親にもしてない、って言ってたし、誰にもしてないんすか。ちょっと……いや、だいぶ不愉快っすけど、アンタはアンタなりに誠実っつーか、純粋なんすねぇ」
言い方としては雑だったと思う。それこそ昨日の紗夏を笑えない。昨日の紗夏には“本命”があったんだから、尚更。
ただ、今の柚陽には普段より余裕がないし、海里に関するコトでは少し余裕をなくしやすいトコもある。完全なボロ、とは言えなくても、少しとっかかりくらいは見付けられないだろうか。
思って言ったコトに、
「……さっきからりっくん、意外と嫌味を言うよねぇ。海里のこと、恨んで潰そうとしたクセにさぁ」
驚くほどあっさりと、柚陽は食いついた。
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