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 隼也(しゅんや)の登場で柚陽(ゆずひ)の機嫌はますます悪くなったように見える。呑気に関係ないことを考えていられる状況ではないと分かっているけど、思わず考えたのは今までの事。普通に友人同士で話していた時の事。  この2人、こんなに仲悪かったっすかねぇ。ぼんやりと考えてみても思い浮かばないのは、今、それだけの余裕がないからか。それともあの時、海里(かいり)以外に興味がなかったせいか。  柚陽の性格を考えると、上手く誤魔化せてしまえそうな気もするけど。  ただ2人の様子を見ていると、明らかに不穏で、ぎすぎすしたような雰囲気があって、この2人が「温厚な友人関係を築いていました」なんて言われても、ちょっと信じられそうにない。  さっきまで明らかに陸斗に対してイライラしていた柚陽でさえ、そのイライラを隼也に向けている。どうにか手を振り払うのに成功したらしくて、腕を組み、トントントントン指先で自分の腕を叩いてる。  ギロ、隼也を睨む目にも、分かりやすい怒りを湛えていて。 「ていうかさぁ、ホント、そんなに嫌なら首輪でも繋げば良いのにー。それができないなら、いい加減紗夏(さな)離れをしなってばぁ」 「そんな事する気はねぇよ。そもそもオレが月藤(つきとう)離れしてないんじゃなくて、柚陽の行動が身に余るだけだって」 「それが紗夏離れしてない、っていうの。紗夏は紗夏の意思でオレを選んでるんだから、お前が外からやいやい言うの変だよ」 「にしたって、さすがに目に余る。いい加減にしろ」 「あー、やだやだ。顔に見合わず独占欲が強いよねぇ」  ……なんか、オレそっちのけ、って感じっすけど。  2人のやりとりを注意深く見つめながら、陸斗はぼんやり考える。とりあえず1番気に掛かっていたことは分かった。代わりにしていた人たちの中で、紗夏は特別ではあるようだ。  ただ、隼也は紗夏と面識があって、ソレを良く思ってないらしい。まあ、誰だってそれなりに抵抗がある事実っすよね。  隼也が“なに”を嫌がっているのかは、正確に知っておいた方が良いかもしれない。隼也と紗夏の関係とかも。これで「柚陽と関係がある事自体」を隼也が嫌がってるなら、ケッコー頼もしかった味方が一転して敵になる。なんせ、紗夏からのお願いは「柚くんと結ばれたい」なんだから。  取り敢えず、(みなと)たちには連絡っすねぇ。2人の様子を窺いつつ、港に送るメールの文面を打ち込んでいく。  罪悪感は相変わらず居座っているし、柚陽はそれを器用に踏み抜いて来るけれど、それに潰されているような時間はなさそうだ。

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