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もちろん、隠しもしなかった盛大な溜息は向かい合ってお茶している紗夏 にもばっちり聞こえてしまっているワケで。紗夏が小さく首を傾げた。
「何かありましたか? 隼也 さんが柚くんに、変な事を言った、とか」
まあこの流れからしたら自然な判断だけど、なんの疑いとなくそう思えてしまうくらいには、隼也と柚陽 の仲は良くないらしい。つーか、悪い、って言った方が正確っすね。
紗夏の質問に、どう答えたものか、陸斗 は悩む。
変な事。
便利な言葉だし、不便な言葉っすよね。紗夏を心配して隼也が口にした言葉は、「世間一般」では正当論だけど、紗夏にとってはきっと「変な事」もしかしたら「余計な事」なんだから。
そんな風に考えていたのは一瞬程度だったけど、紗夏が悟るには十分だったみたいで「その反応で大体わかりました」いたずらっ子みたく、苦笑した。
「隼也さんが柚くんに、オレに手を出すのはいい加減にしろ、みたいなことを言ったんでしょう? 隼也さん、オレのことを気遣ってくれてるんだと思いますが、オレの気持ちは二の次、三の次なのが困るんですよね」
「……まあ大体そんなとこ。オレとしては隼也の気持ちも分かるから、下手に言えないっすけど」
「陸斗 さんはそれで良いんですよ」
言いながら紗夏は微笑む。陸斗の方が年上なんだけど、まるで年下をあやすように。
「好きな人を幸せにしたい派の陸斗さんが、隼也さんの気持ちを否定するのは、少しおかしいですからね。隼也さんがオレの気持ちを分かってくれてないのには困りますけど、万人に理解出来る性癖ではないことくらい、オレはわかってます」
「……ちょっと、時間掛かっちゃうかもしれねぇっす。隼也、敵に回すと、少し厄介なんで」
「良いですよ。いつまででも待ちます。もちろん、海里 さんのこともきちんと守るので、安心してください」
そのあとは、特に意味のないような会話を交わして、喫茶店を出たあと、それぞれの自宅に向かうべく、陸斗は紗夏と別れた。
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