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 陸斗(りくと)。聞き覚えのある、今聞きたくない声で1、2を争う声が聞こえて、陸斗は身構えながらも視線をそっちに向けた。  思った通り、声がした方には隼也(しゅんや)が立っている。何か言いたげな顔をしてるけど、目を見るだけでもいろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざっていて、何を言いたいかは分からない。  多分、喫茶店の前で紗夏(さな)と別れたトコ、見られたんだろうなぁ。  ぼんやり思いながらも、平然と「どうしたんすか?」聞いてみた。 「お前、月藤(つきとう)と知り合いだったのか?」  開口1番、って感じだ。  まだ陸斗に対して怒りはないようだから、話し合いの余地はありそうだけど、下手な事を言えば柚陽(ゆずひ)相手にした時のようになりかねない。  もちろん、本当のことなんて言えないし。ここは慎重に、っすね。  内心で自分に言い聞かせながら、陸斗は「当たり障りのない」答えを手探りながら、口を開く。 「うーん……まあ、知り合いって言うのが1番近いっすかね? 知り合ったのは最近なんすけど」 「……そっか」  少しの間、露骨に疑いの眼差しを向けていた隼也だったけれど、納得してくれたらしい。  いろんな感情が混ざっていた両目から、疑いとか、怪訝とか、そういうのが消えて、少しだけ単純になっていく。まあ、そうは言ってもまだまだ色々秘めてそうっすけど。 「でもお前と月藤って珍しい組み合わせだよな? と言うか、いつ会ったんだよ? なんであんな親しそうなんだ?」  喫茶店での様子か、別れ際の様子を覗いてでもいたんだろうか。  まったく。心配なのは分かるっすけど、度を越したらただのストーカーっすよ? 柚陽の「顔に似合わず独占欲が強い」っていう評価に、つい納得してしまいそうになる。  まあ、それだけ紗夏を案じてるから、なのかもしれないけど。  とりえず、紗夏にはあとで口裏合わせを頼むとして、 「たまたま迷子かなんかになってた紗夏を見付けて、案内したんすよ。で、お茶したんす」  無難な答えを口にした。

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