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幸い、隼也 の目に、怪訝や警戒が戻ることはなかった。ただ、きょとんとされた後で、いたずらが見つかった子供のように気まずい顔をされて、ふいっと、視線を逸らされてしまったけれど。
気まずそうな顔のまま、「あー……」とか「うー」なんて意味のない音を吐き出す隼也に、一応隼也なりに気を遣ってくれてるんだろうかと、陸斗 は仮定してみる。
なんせ、向こうの気持ちはどうであれ、柚陽 と陸斗が付き合っていたのを隼也は知ってるし、基本は誰かを毛嫌いする人でもないのだ。
「もしオレが柚陽と付き合ってたからって遠慮してるなら、気にしなくて良いっすよ?」
見当違いの仮定かもしれないとは思いつつそう促してみれば、正解だったらしく、「不快にさせたらごめんな」なんて律儀に謝ってから、隼也は頷いた。肯定。
「具体的になにしてるって分かったワケじやんないし、確証もなかったけど。アイツが月藤 にしてることを考えたら、放っておかないと思ってな。……もしかしたら月藤を助けたくて、お前を利用したかも。ごめん」
頭を下げられて、逆に陸斗の方が恐縮してしまう。今オレだって似たようなことをしてるんだから、謝らないでほしいっす。
……なんてもちろん、言えないけれど。
「おかげで海里 を助けられたんで、オレとしては礼を言いたいトコっす。……ねえ、プライバシーに突っ込んで悪いとは思ってるんすけど、アンタ、好きなんすか? 紗夏 のこと」
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