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「そんなんじゃねーよ」  文字通りの「即答」だった。  「早過ぎる否定は逆に怪しいっすよ」なんて、冗談でも言えないの迫力がある。目は真剣そのもので、「なに言ってんだ」と語ってる。呆れと怒り。多分両方の意味合いで。  紗夏(さな)のことには慎重にならなくてはと思ってはいたけれど、どうやら陸斗(りくと)が思っている以上にデリケートな問題なのかもしれない。  少なくとも、隼也(しゅんや)にとっては。  半分以上はあっけにとられて。  残りの半分は、今後のことを考えて。 「ごめん、ほんと変なこと聞いたっす」 「いや、オレの方こそ悪い。マジになった」  苦笑を浮かべて隼也は頬を掻く。目線も気まずそうに泳いでいた。 「まあ、もちろん嫌いじゃないけどな。むしろ色恋沙汰とか抜きにすれば好きだし」  それは、まあ、柚陽(ゆずひ)とのやり取りを見ていても、通じる。むしろアレで「嫌いだ」なんて言われたら、陸斗としては自分の「好きだからこうする」「嫌いだからこうする」っていう価値観を疑わなくてはいけなくなる。隼也がしてることもただの嫌がらせになりかねないしね。 「あっちがどう思ってるかは別として、オレにとって月藤(つきとう)は家族みたいなもんなんだよ。だから傷付いてほしくないし、真っ当な恋愛をしてほしい」 「……それでむしろ、紗夏が傷付くことになっても、っすか?」  さっきの隼也を見て、それを聞くのには勇気がいた。これは勇気じゃなくて、「蛮行」なんて呼ばれるものかもしれない。  それでも紗夏の望みが「柚くんと結ばれたい」なら、結局避けては通れない問題なのだ。  柚陽の件で過敏になってるだけかもしれないけど、敵が味方かは早い内に分かっておいた方が良い。  ごくり。1度唾を飲み込んで。拳は強く握りしめて。そうして、陸斗は隼也にソレを訊ねた。

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