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 隼也(しゅんや)の本当の気持ちも、波流希(はるき)の本当の気持ちも、もちろん陸斗(りくと)には分からない。本人から聞いていても、それが「本当」なのか「本音」なのかなんて、本人じゃなきゃ、場合によっては本人でさえ分からないのだから。他人である陸斗に、ましてや今まで人と満足に交流してこなかった陸斗に、分かるはずもない。  隼也と紗夏(さな)の関係についても、陸斗は分かっていない。そもそも紗夏を知ったのだって最近だ。  それに人の考えなんてそれぞれなのだ。  陸斗が「好きな人は守りたい」と思い、柚陽(ゆずひ)が「好きな人を壊したい」と語った様に。1人の意見が全てだなんて思っていないけれど。  それでも、今後の行動を思えば、隼也と紗夏の関係に1番近い身近な人間として、波流希の意見を仰がずには、いられなかった。  本当、“壊した”本人が、“お兄ちゃん”本人に聞くって、「どういう神経なんだ」って怒鳴られても不思議はないっす。 「“お兄ちゃん”だからどう、っていう意見は、オレには言えない。だって隼也くんの理屈だとオレは、海里(かいり)にどんなに恨まれて、海里が壊れることになっても、オレの一存で陸斗くんと海里を切り離さないといけない。でもオレは、今こうして陸斗くんと会ってるし、陸斗くんに海里を待っていてほしい、って思ってるよ。海里がなにを望んでいるか、一応、分かってるつもりだから」  けれど波流希はソレをせずに、穏やかに微笑んでそう伝える。それが、怒鳴られるより、恨まれるより陸斗にとっては辛い。分かってやっているのか、それとも本当に、それが本音だとでも言うのだろうか。それは分からない、けど。  波流希は微笑んだまま、やさしく、陸斗を見つめる。  目も口元も微笑んでいて。まるで怯えきった小さな子供に向けるような、そんな顔。 「しょせんコレも、オレの考えに過ぎないんだけどね。“はるにぃ”は、海里がなにを求めているのか、海里の親よりも分かってるつもりなんだ。現に“あの時”、オレ等にも怯えていた海里は、それでも陸斗くんの幸せを願ったでしょ? オレは陸斗くんに感謝してる反面、やっぱり許せてないよ。だけどオレが許せないからって、海里と陸斗くんを引き離したら、海里は壊れてしまうと思う。だからオレは、オレの身勝手では引き離したくないんだ。こういうの、双方が納得して離れるべきでしょ?」  そのあと波流希は苦笑して、「まあ、海里が“陸斗と離れたいのに怖いからできない”って泣き付いてきたら、陸斗くんのこと潰してでも引き離すけど」なんてさらりと伝えて、背筋の冷たさと、「それもそうっすよね」なんて納得を感じたんだけど。

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