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「じゃあ、あくまで波流希(はるき)的に、隼也(しゅんや)の考えは“お兄ちゃんとして”って言うより、“他のなにか”からだと思う、ってことっすか?」  過保護にしても厄介だけど、“お兄ちゃん的なソレ”ではないとしたら、その方が厄介だ。できれば否定してほしいんだけど、話の流れからして、無理っすよね。  陸斗(りくと)の考え通り、「そうだね」波流希は肯定を返した。 「まあ、そうは言っても、隼也くんが本当に“お兄ちゃんとして”紗夏(さな)くんに接してる可能性だってあるけどね。ただ、オレは、隼也くんがオレと同じ感情を持ってるとは思えない、って話で」  波流希は穏やかな苦笑を浮かべている。浮かべているけど、両目には確かな焦りが宿っていた。  それもそうだろう。なんせ、本人が無自覚に独占欲をこじらせているとしたら、「紗夏との約束」がある身としては厄介だ。実は自覚してました、って言うのでも厄介だけど。  「恋って、人を狂わせるっすからねぇ……」自分のしでかした事を思い起こしながら、陸斗は苦い顔をしつつ、そう思う。確かにマンションの海里(かいり)を助けることができたのは、隼也のおかげだ。そこに「もし月藤(つきとう)が巻き込まれてたら」っていう、隼也の懸念があってのことでも。  ただ、だからこそ、隼也は、柚陽(ゆずひ)と紗夏を引き離すためなら、それこそ「なんでもする」んじゃないかと思ってしまう。ましてや、「陸斗が紗夏と柚陽を付き合わせようとしてる」なんて気付かれたら。  仮にも隼也は友人だ。柚陽の不穏な動きだって伝えてくれた。  ……確かに、今までの陸斗だったら、隼也を疑うことに躊躇いなんてなかったけど。それでも、今の陸斗はそれなりに、友人に対して、感謝なり、なんなりを抱いている。ただ、それでも。  陸斗は思わず、自分の親指の爪を噛み締めた。ガリッ、小さくて鈍い音が口元で鳴った。  ……もし陸斗が紗夏と交わした約束に、陸斗の狙いに気付かれたら。  隼也は紗夏を守るため、紗夏と柚陽を引き離すために「海里を人質にしかねない」そう思えてしまって。

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