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「……オレがそれほど知らないっていうことは、(みなと)とも、あまり接点がないって考えても良い?」 「ごめん、オレもそれほど誰と誰が親しいとか、そういうのは分かんないんす。でも、オレの知る限りじゃそこまで接点はない、と思う……」  自分が思い至った方法に不安があるのか、切り出しながらも波流希(はるき)の目には焦りや悩み、躊躇いの色が残っている。時折、ふい、と逃げるように逸らされた。  波流希とこうやって話した回数は多くない。それでも、そんな少ない中でも「珍しい」そう思わせる仕草だ。  きっと波流希にも余裕がなくて、今から口にする提案が正解なのか不正解なのかも、分かってない。それでもそれくらいしか、良い手が……「マシな手」が思いつかないんだろう。だから波流希は、悩みつつ、口を開くことにしたんだろう。  現状はどっちを向いても詰まってる。ただでさえそんな状況なんだ、いくら人の感情に疎い陸斗(りくと)だって、十分に悟れた。 「ちょっとだけ、試してみようかって話になったんだ。港とオレで」 「試す、って」  間抜けに言葉を復唱した理由が、陸斗は自分で分からなかった。  本当に波流希の、波流希たちの考えを理解できないのか。それとも理解できたからこそ、信じられなくて、不安もあって、理解を拒んでいるのか。  「うん」波流希は小さく、穏やかに頷いた。波流希も不安だろうに、よく見れば相変わらず両目に焼き付いた不安は隠しきれてはいないのに、どこか人を安心させるほどの、あたたかさで。 「紗夏くんにも、もちろん相談するんだけど。……あえて隼也(しゅんや)くんに気付かれるような形で、“紗夏くんに好意を持った誰か”が現れたら、隼也くんはどうするのか。それで、少しは対抗策も分かるかもしれない、って思って。我ながらもっとマシなテが思いつかないのか、って呆れるんだけどね」  不安を宿したままの目で苦笑を浮かべて、それでもやさしく伝える波流希に、陸斗の胸はズキリと鈍く痛む。今はそんな場合ではないのに、「そもそもオレが」常に居座っている罪悪感と後悔が、また陸斗を押しつぶそうとする。  でも今は、潰されている場合じゃないんだと、何度目になるか分からない言葉を自分に投げ付けた。覚悟を決めて拳を作り上げる。 「オレも協力する……違う、オレにも協力させてください」

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