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あなたを好きになりました
「……なあ、ちょっと良い?」
遠慮がちに掛けられた声に、陸斗 は思わず、どきりとした。心臓がばくばくとうるさい。顔に出てないっすかね。不安ではあるけれど、そこを気にしていたらますます変な顔を見せてしまいそうだ。
平静を装って「なんすか?」問い返す。上手くいっただろうか。自分ではそれほど声が震えていなかった、と思いたいけど。
話し掛けてきた隼也 は、周囲をきょろきょろ見回す。まあ、大学内だから当然人はいるだろう。自主的に作り出さないと2人きりになるのは難しい。
とりあえず、怪訝な様子をされていないことに、安心する。どうやら声は震えたりしていなかったようだ。
それにしても。
改まって陸斗に声を掛けた事。すぐに用件を切り出さない様子。
例の作戦を決行したのは昨日だというのに、もう隼也は気が付いたのだろうか。だとしたらちょっと、過保護がひどくねぇっすか?
あまり思い出したくない記憶ではあるけれど、波流希 が陸斗に物申しに来たのだって、昨日今日の話ではなった。海里 が完全に心を許している波流希よりも素早く対応するって、もはやコレ、「独占欲」とか「過保護」の域を出てるっすよ?
陸斗の脳裏に自然浮かぶのは「大好きだから壊すんだよー」と無邪気に告げた柚陽 や、「大好きだから壊されたいんです」と告げて包帯が巻かれた腕を愛おしそうに見つめていた紗夏 。
こんなこと考えていると本人にバレたら、ひどく怒られそうではあるが、今の隼也からはソレに似たものさえ感じてしまう。
相変わらず周りを見回して、話べきかどうか、迷っている様子の隼也をぼんやり見つめた。もしかしたら、柚陽の不在を確認してるのかもしれない。
柚陽と隼也は不仲だし、紗夏の話題となれば尚更だ。……まあ、さすがに昨日の今日、紗夏のことじゃないかもしれないっすけど。
はあ。少し大きめの溜息1つ。
そのあと、声を潜めて、「今日、時間あるか?」隼也はそう、問い掛けた。
「あるっすよ。次は授業あるんで、そのあとになるっすけど」
「ん、オレもその時間は授業取ってるから問題ねーよ。悪いけど、次の授業が終わったら、ちょっと付き合ってくれないか? やっぱここじゃ話しにくいわ」
「ん、分かったっす。じゃあ、正門前で待ち合わせで良いっすか?」
「ありがとな」
そう言ってカラリと爽やかに笑う姿は、隼也の顔立ちに見合っているけど。
その目の奥の奥あたりで、どろりと渦巻いてる気がした「独占欲」が。この時、初めて、隼也に似合っている気がして、陸斗はひどく、ぞっとした。
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