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 これはなかなか、厄介な相手かもしれない。厄介、と言うよりは「危険」と言った方が良いかも。隼也(しゅんや)を敵に回すのは厄介そうだと思ってたけど、これは予想以上だ。 「うーん……クラスメイトとかじゃねぇなら、他校の友達っすかね? 大学生なら先輩とか、友達のお兄さん、って可能性もあるっすよ」 「他校にもあんな友達はいなかったし、友達の兄貴って、月藤(つきとう)が会う必要もないだろ? アイツのこともあるから、大学生なんてなおさら心配なんだよな」  もし海里(かいり)が他の人間に「あんな事」をされたとして。陸斗(りくと)は、ただ海里を大切にしていたとして。  そんな仮定、意味はないけど、それでも陸斗は考える。オレはここまで過敏になったっすかね?  もしかしたら、なったかもしれない。だけど隼也の場合、そうした恋心は一切ない、そう言い切ってるワケで。 「うーん……。なんかそんな、心配になる事、してたんすか?」 「オレの知らない大学生と会ってるだけで心配だっつーの。……やっぱオレ、独占欲とか強いか?」  心配そうに陸斗へ訊ねる様子は、本当に自分の想いに不安を感じている風ではあった。演技には見えない。見えないけど、オレ、人を見る目がイマイチっすからねぇ。  柚陽(ゆずひ)の件で騙されやすい自覚はある。慎重になれ。言い聞かせながら陸斗は「うーん」考える仕草を挟んでから、口を開いた。 「ちょっと心配性かな、とは思うっすねぇ」 「そっか。……けどさ、大学生だからって不安に思うのはソレにしても、あの男、明らかに月藤見て照れてたし、少し距離も近かったぜ? 月藤も月藤でソイツの頭撫でてたし」  納得した様に呟いてすぐ、不満を吐き出した隼也の目には。  ありありと、はっきりと、メラメラと、1つの感情が燃えている。隠す気がないのか、自覚がないのか。  (みなと)への。隼也にとっては「正体不明な男」への、怒りと嫉妬が。

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