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「ま、ソイツのこと、もしなにか分かったら教えてくれ。正体とか、月藤 をどう思ってるとか」
「オレじゃ力になれないっすよ?」
「もし分かったらで良いよ。なんなら、正体とかどうでも良いから、月藤をどう思ってるかだけでも、分かれば良いや。もし月藤のことを好きだ、なんて言うなら、なんとかしないといけないしなぁ」
自分の言っていることが、「なにかおかしい」なんて、微塵も思ってない様な言い方だった。雨が降ってるから傘を持つ。お腹がすいたから食事を摂る。そんな、「当たり前」のことを言うように。
「紗夏 を好きな人間」は、「自分」が、「なんとかしなければいけない」と。
そんな隼也 に、陸斗 の背中がぞっとする。
相変わらず、嫉妬心や独占欲なんて無縁の、穏やかで爽やかな顔をして。まるで紗夏のすべてを管理するのが当たり前だと、口にした。
これは、あの柚陽 も、自分の「キャラ付け」なんて忘れて叫ぶだろう。それも、自分が代用品の中で1番気に入ってる紗夏に対して向けられてるんだから。そうしたイライラだって、柚陽の中にはあるのかもしれない。
「いやいや、なんとか、って怖いっすよー。それに、もし良い人だったら、悪くはないんじゃないっすか? 紗夏を大切にしてくれて、守ってくれるような人なら」
渇いた口の中をどうにかこうにか必死で湿らそうとして、震えそうになるのを堪えて。少しだけ隼也に反発するような言葉を口にする。
隼也の目が細くなって、ギロッ、陸斗を正面から睨み付けた。心臓が痛い。「ヒッ」そんな風にあがりそうになった悲鳴を、どうにかこうにか押し込む。
怖い。違う、ただ怖いとかじゃなくて。本能的に。生命が、危機を訴えるような。
なにか言った方が良いのか。言わない方が良いのか。「あー……」言おうにも、声が喉に貼り付いて、満足に出てこない。
「その、えっと、ごめん。オレ、変なこと言った、っすか?」
「あ、いや、悪い。確かに陸斗の言ってることも分かるんだけどな」
はっとした様に目を開いて。そのあと苦笑を浮かべた隼也は、陸斗も知っている隼也だった。だけど、やっぱりあの顔は、そう簡単に離れてくれるものじゃない。
油断すれば他人にも分かるくらい、ガタガタと体を震えさせそうだ。
ドキドキとうるさい心音を感じつつ、隼也の言葉を待った。隼也に聞こえていなければ良いんすけど。
果たして隼也は。
あの、文字通り「人を殺しそうな目」が、夢や勘違いだったのかと思えるほど。ちょっと照れくさそうな苦笑を浮かべて、「いや、そのな」なんて言いにくそうにしながら頬を掻きながら、
「確かに柚陽なんかに熱を上げて、傷を増やすよりは遥かに良いんだけど、月藤が誰かと付き合うっていうの、あんま考えたくねーんだ」
そう、言った。どこか照れくさそうに。まるで「片想いの誰か」の名前を告げる時みたいに。
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