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「えっと、隼也 、紗夏 のことを好き、とかじゃなかった、っすよね?」
それを言うのには勇気がいたし、だいぶ躊躇った。あの時の恐ろしさは記憶に新しいし、ついさっき隼也に対する恐怖は増したばかりだ。それでもあえて地雷を踏み抜くような真似をしたのは、相手の手の内を知るため。
海里 を守る上での不安要素があるなら、把握しておくに越したことはない。知っていても柚陽 にアレだけのことを許してしまったんだ、相手の出方は分からないのに、こっちの全てを知られてるっていうのは、恐怖でしかない。
言った声は震えていなかっただろうか。
今更不安になる。隼也の目を見るのが怖かったけれど、逃げてなんていられない。拳を握り締め、勇気を奮い立たせて、そうやった見た隼也の目は。
怒りでも、憎しみでも、呆れでもなく。
「きょとん」と、不思議そうに、まんまるになっていた。
「隼也……?」
怒られると思っていただけに、その反応はあまりに意外で。内心おそるおそるではあるものの、名前を呼べば、隼也は「今まさに電源が入った」とでもいうように、はっとして、「いや悪い悪い」なんて頬を掻きながら呟いた。
その頬はこころなしか、ほんのりと赤い。怒りによる赤面っていうよりは、初めて恋を知った少年のような、そんな色づき方。
「月藤 に対しては、一切そういう考えはない。前も言ったと思うけどな。ただ、オレのこーいう感情って、お前から見たらそうなるのかと思うと、なんか今になって照れてきた」
そうやって照れくさそうに言うのが、全て本当なら。隼也は今まで「好き」という気持ちに無自覚のまま、紗夏にストーカーまがいの独占欲を寄せてた、ってことか。……なんか柚陽と変わらないように思えてきたっす。
それでも、これらが演技じゃなくて「本当に無自覚」だったなら。今まさに「自覚した」のなら。少しだけでも対処はしやすくなった、と思いたい。もちろん楽観視なんて危険なことするつもりはないし、全部演技だった場合は、かえって危険なことになるかもしれないけど。
「まあ、なんだ? アイツじゃなくても月藤が誰かと付き合うって気分は良くねーし。一緒にいた男についてなにか分かったら教えてな」
照れくさそうに言う隼也に陸斗は、油が切れかかった人形のようにぎこちなく、首を縦に動かすしかできなかった。
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