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 優先するべきは海里(かいり)の安全だ。それは陸斗(りくと)(みなと)達も同じである。だからこそ、今、1番ソレを果たせる紗夏(さな)との約束は大切にしたい。隼也(しゅんや)から感じる恐怖など、文字通り「二の次、三の次」だ。  でもそれは、陸斗が自分に対してだけ、思っている事で。  港の言葉に、陸斗はきっぱりと、首を横に振る。「お前」何か言いたげに港が口を開いたのは分かって、だからこそ言わせまいとばかりに、「駄目っすよ」陸斗は言葉を遮った。 「隼也は怖い。危ないとも言えるっす。なら、目的を果たした以上、あんま隼也を煽るのはオススメしないっす。つーか、煽るな、って言いたいっすね」  隼也が紗夏に好意を持っているかどうか。それは、どの程度なのか。  1番の目的であるそれは、もう果たせている。それならこれ以上、危ない橋を渡る事もないだろう。仮にその「危ない橋」が、「重要な策」であっても。  港は怪訝そうに眉をしかめ、不愉快そうに陸斗を睨んでいた。これ以上機嫌を損ねれば、殴られるかもしれない。  幸い、今、港が殴っても咎める人間なんて、誰もいないのだし。 「……お前、本気か? 好意がある、ストーカーまがいのことをしてる、柚陽(ゆずひ)と不仲。上手くつついて、紗夏が柚陽とくっつくキッカケにすべきだろ。柚陽、紗夏のことはなかなかに気にってるんだろ?」 「隼也が怖いって言うの、港も知ったんでしょ? ぷっつーんと切れたら、何するか分かんないっすよ? 殴る蹴るじゃ、済まないかもしれない」 「オレは!」  それでも、構わない。  港が何を言いたいかなんて、痛いほどによく分かる。だってあの時、「海里じゃなくてオレにしろ」って、懸命に訴えたヤツっすよ? オレなんかに、誘い文句まで口にして。  付き合いが短くても、そんな姿を目にしてしまえば、何を考えてるかなんて簡単に想像できてしまう。 「ダメっすよ。海里が、どう思うかアンタなら分かるでしょ? 自分を守るために自分の親友が犠牲になるなんて、我慢できない男っすよ、海里は」  港を不幸にして得た安寧なんて、海里が喜ぶワケがない。  海里の幸せのため、礎になるべきなのは。 「……お前こそ、ふざけたこと考えてるんじゃねーだろうな?」  港の、今まで、海里を壊した時でさえ聞いたことのなかったような低い声が、陸斗の思考を強引に遮った。

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