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「やっぱ、海里(かいり)にとってアンタは、大切な親友なんすわ。あのやさしい海里が、他でもない親友を傷付けて自分が助かりました、なんて知ったら、幸せにはならないっすよ」 「だからと言って、お前が傷付くよりはマシだろ。あん時だって、お前にだけは怯えなかったんだし」 「それさえ柚陽(ゆずひ)の企みだった、って考えも出来るけどね」  陸斗(りくと)の、苦笑まじりの反乱に(みなと)は思わず、というように黙り込んだ。多分ソレは、港にも思い当たりがあるだろうから。  なんせ、あの柚陽だ。海里の「陸斗に幸せになってほしい」って気持ちを利用しないとは考えにくい。現に、「柚陽と一緒にいればオレは幸せで、オレが幸せならキミが幸せって言うならオレは柚陽の傍にいる」なんて言い出したんだから。  もし柚陽がそうしなければ、陸斗のことだって同じように、あるいは、それ以上に怯えた目で見ていただろう。 「にしても。認めたくねーけど、悔しいけど、お前は特別なんだよ、陸斗。先輩ほどじゃねーけど、結構長い間海里と一緒にいるから分かる。あんな事されたって、海里はお前が傷付く痛みに比べれば、オレがどうなったって、その傷は癒えると思うぜ」  苦笑を浮かべて。まるでどこか、ヤケでも起こしているように、港は語る。  それは、本来気の長い方ではない陸斗の堪忍袋を断ち切るに、十分だった。「そんな資格はない」「オレは責められるべきなんだ」そんな、あの時から離れない罪悪感と後悔も、この時ばかりは吹き飛んで。  気付けば、握った拳が、ヒリヒリと痛い。  目の前では港が、自分の頬をおさえて、ぽかん、と目を見開き、口も半開きにしていた。  さっきまで浮かべていた苦笑が、少しだけ間抜けに顔に貼り付いて残ってる。  ああ、殴っちゃったんだ。遅れて気付いて、だけど謝罪の言葉は、最初には出てこなかった。

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