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三者三様、恋模様
「隼也 さん、港 さんにも警戒しだしたんですね。港さんには少し悪い事をしてしまったかも、しれません」
電話の向こうで、明らかにしゅんとした声が聞こえる。半分だけ。
半分は、呆れとか、恐怖とか、「ああ、やっぱり」なんていう納得とか。そんな気持ちがないまぜになってるような声。
隼也との遭遇率や、隼也が港にバレないように港たちの様子を終始窺っていたらしいことから、陸斗 は、少なくとも当分は紗夏 と直接会うのを避けることにした。
なんせ紗夏の人間関係を把握しきっていて、そのうえで「他の男を近付かせたくない」「大学生というだけで十分警戒に値する」なんてことを言ってのけるような人だ。味方でいてくれた時は頼もしかった。友人としては適度な距離感が心地良い、明るく爽やかな好青年だった。でも、紗夏が関わるとダメらしい。
別に海里 のためなら陸斗はいくらでも危ない橋を渡れるし、そうするべきだと今でも思っている。
だけど。
ケータイを持つ自分の手に、陸斗は目線を向けた。もうとっくに痛みなんて引いているはずなのに、まだヒリヒリと痛む、ような気もする。
海里の幸せを本当に考えるなら、自分を犠牲にするような真似、危険に飛び込む真似はするなと言い合ったのは、つい数時間前のこと。それを一瞬で撤回できるほど、陸斗の肝は太くない。
だから紗夏との連絡手段も基本は、電話やメールでのやり取りに変えてもらうことにしたのだ。
……さすがに盗聴されてたら意味がなくなるし、「ありえない」って言いきれないのが怖いんすけど。
「まあ、オレ達はアンタを利用してる面もあるし、アンタもオレを利用してる面はある。だからいちいち気負わなくて良いよ。お互い、最低限だけ守れば良いんす」
「そのへんは安心してください。柚くんがオレ以外を傷付けるのに耐えられなくなっているオレが、海里さんを守らないなんて、ありえないので。オレにとってはむしろ、恋の邪魔をしているような気分ですね」
「ははっ、正直まだソーイウ思考には不慣れっすけど、却って安心できるっす」
「なによりです」
柚陽 が“そう”であるように、柚陽に恋する紗夏もまた、「好きな人は壊したい」といった恋愛観の持ち主だ。紗夏の場合は厳密に言うと「壊されたい」らしいけど。
今、ソレに悩まされているというのに、ソレに救われてもいるんだから。
「……ところでさ。気を悪くさせたらごめんね?」
「どうぞ。陸斗さんがわざわざそう言うということは、必要なことなんでしょう?」
年下の子に気を遣われてしまっている現状に、思わず苦笑を浮かべながら「ありがと」と返して、まずは深呼吸を1つ。
隼也のことに触れるには、柚陽のことに触れる時とはまた違った、それでいて重くて苦しい緊張に襲われる。
「今までも隼也って、こーいうコト、してたんすか?」
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