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「そう言うヤツもいるかもしんねぇけど、アンタは柚陽 だから良いんでしょ? んな、“その他大勢”でも一緒でしょ、なんて理屈は通らないんすよ。だから申し訳ない事しちまったな、って」
「そう思ってくれるだけで嬉しいんですよ。ありがとうございます。それに陸斗 さんは海里 さんが心配だから聞いているんでしょう? あと、これが打算でも一応オレのことも考えてくれてるんだし、聞いた事自体も謝らなくて良いですよ」
少なくとも電話越しに聞こえる声はやさしくて、やわらかくて。「無理してる」って感じではなさそうなことに安心した。
紗夏 の機嫌を損ねたくないというのはあるし、あまり“誰か”を不快な思いにさせたくない、っていうのもある。まあ、柚陽とか隼也 とか。そうも言ってられない人はいるんすけど。
自分も大分変ってしまったものだ。なんてぼんやり思いながら、照れくさそうに頬を掻いた。
「……港 さんには、気を付けるように言ってくださいね」
キシッ。小さなノイズが耳に届いた。もう紗夏も笑っていない。なんの音だろう。急に電波が悪くなったんだろうか。一瞬そう思って、紗夏が自分のケータイを握り締めたのだろうと遅れて気付く。
内容もそうだけれど、「気を付けるように言ってください」そう言う紗夏の声音は、深刻そのものだった。
隼也が思っている以上に独占欲があった。そんな状況で、“フリ”とはいえ、紗夏にチョッカイを出しているのだ。もちろん危険なことなんて承知だったし、だからこそ数時間前のやり取りがあったんだけど。
改めて、それも紗夏から言われると、つい身構えてしまう。自然、陸斗も自分のケータイを握る手に力を込めていた。
「自分で言うのもなんですけど、隼也さん、オレに対する独占欲は凄いと思うので。オレが隼也さんにしなかった話も知っていますし、柚くんとの関係が出来てからは、本当……危なくなってて」
「ん、気を付けるように言っておくっすよ。港が危ない目に遭ったら海里も悲しむし、それはオレの本意じゃねぇんで。それに、散々なメに遭わせちまったから、できるかぎり港も守ってやらないと。自己満足の償い、っすね」
緊張を隠すように苦笑を浮かべて陸斗は応じる。「陸斗さんは、やさしいですね」なんて、見当違いな言葉を返されて、ちょっと戸惑った。
でも、その一瞬やわらかくなった声音は、また厳しい物に変わる。電話を切る間際、「くれぐれも」紗夏は、そう言い添えた。
「陸斗さんも、気を付けてくださいね」
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